▼子どもへの向精神薬処方が大幅に増加していることが、厚労省研究班の調査で明らかになった。調査は、厚労省の社会医療診療行為別調査(2002?10年)のデータを二次分析したもので、18歳以下の外来患者、延べ23万3399件が対象。それによると、6~12歳の子どもへのADHD治療薬の処方割合は08?10年と02?04年の比較で84%増、抗精神病薬は58%増。13~18歳ではADHD治療薬が2.5倍に増え、抗精神病薬は43%、抗うつ薬は37%、それぞれ増えている。
▼増加は世界的な傾向だが、承認されている向精神薬のうち子どもを対象にしたランダム化比較試験を経たものは、ADHD治療薬2剤(アトモキセチン、徐放性メチルフェニデート)のみ。研究班の奥村泰之氏(医療経済研究機構)らは「医師は子どもへの投与に関する有効性・安全性が確立していない向精神薬を余儀なく使用している」と指摘する。その実態についてはこれまで報告がなかったが、今回の調査で、ADHD治療薬だけでなく抗精神病薬や抗うつ薬の処方も増えていることが明らかになった。抗精神病薬は子どもの自閉性障害による行動障害やチック障害等、抗うつ薬は強迫性障害や社交不安障害等に使われているとみられ、研究班は「これらの薬剤の子どもへの治験の推進が喫緊の課題」としている。
▼調査では、向精神薬の併用処方が高頻度に認められる実態も明らかになった。抗精神病薬を処方された13~18歳の患者の53%は抗不安・睡眠薬、26%は抗うつ薬が併用されていた。また、抗うつ薬を処方された患者の53%は抗不安・睡眠薬、36%は抗精神病薬を併用。米国、ドイツ、オランダでは併用処方は6~19%と報告されているのに対し、極めて高い数字だ。調査手法の違いはあるが、何故日本で併用の割合が高いのか、検討していく必要がある。ADHDと不安障害の併存症例や治療抵抗性の症例など、必要に迫られた対応だとしても、その有効性・安全性に関するエビデンスは諸外国でも不足しており、研究班は「実臨床において、長期的な有効性と安全性を把握できるような調査手法を検討する必要がある」と訴えている。
▼背景には、日本の子どもの睡眠の乱れ(小児の睡眠時無呼吸では不注意、多動などADHDと似た症状が現れる場合がある)や東アジア固有のインターネット(ゲーム)依存の問題も横たわる。総合的な対策が急がれる。