▼先日、ある大学病院の医師に取材した際、ここ数十年でいかに疾病構造が変化したかという話の流れから、未来の医療の話題になった。「100年後くらいには診断は人工知能がやるようになり、医師は診断をしなくなると思う。少なくとも内科医の仕事は今とは全く別のものになるだろう。内科診断学の研究者はいても、一般の内科医が診断に頭を悩ます必要はなく、ぱっと答えが出るようになるのではないか」
▼近年、人工知能の研究が飛躍的に進み、自動運転車やドローンなど、さまざまな分野への応用が期待されている。2006年頃に「ディープラーニング」と呼ばれる人工知能の技術が登場したことが、研究のブレークスルーとなった。小林雅一著『AIの衝撃 人工知能は人類の敵か』(講談社現代新書)は、脳科学の成果を取り入れたディープラーニングの特徴を、人間の脳の最大の強みである「学んで成長する力」とコンピュータの強みを併せ持つことだとしている。
▼進化を遂げる人工知能が「人間の仕事を奪うのでは」との懸念も示されている。英オックスフォード大のカール・フレイとマイケル・オズボーンの両博士が2013年に発表した論文「雇用の未来─私たちの仕事はどこまでコンピュータに奪われるか?」は世界的な反響を呼んだ。もっともこの論文では、今後10~20年以内に仕事をコンピュータに「奪われそうにない」職種のトップに医師を挙げている。
▼冒頭で紹介した医師は、未来の内科医像を次のように描いていた。「患者・家族の能力を引き出し、彼らなりの幸せの方向に向かうようコーディネートすることは、機械にはできない。人が人を支援する仕事は残るでしょう」。人工知能が診断を行う社会では、患者に寄り添う「かかりつけ医」の役割が、より重みを持つことになるのかもしれない。