ステージDの重症心不全患者の生命予後を改善させることができるのは,心臓移植と補助人工心臓だけである。心臓移植には脳死ドナーが必要で,数的限界がある。米国では早くからその点が意識され,移植適応外の植込型補助人工心臓治療(destination therapy:DT)が施行されてきた。
わが国において長年DTの保険適用が議論されてきたが,2021年にようやく承認され,細かい基準を定めて開始されている。本稿では承認に至る経緯とその実施基準につき,概説する。
左室補助人工心臓(left ventricular assist device:LVAD)開発当初は,移植までの期間を在宅待機するためのbridge to transplant(BTT)目的の植込型LVADであったが,米国で2001年に薬物治療とDT-LVAD治療を比較したREMATCH試験1)が施行され,拍動流HeartMate ⅠによるDTが内科治療に優る予後を示し,landmark trialとなった。この試験は,内科治療とLVADを比較した唯一の試験である。しかし,拍動流ポンプは合併症や故障が多くDTが一般化するには至らなかった。その後,HeartMate ⅡがそのDT試験2)において,拍動流HeartMate XVEに圧倒的な差をつけ,2010年以降,植込型LVADはすべて連続流ポンプという時代に突入した。この間,米国を中心にDTは全LVAD植込の半数を占めるようになるまで成長した。
現在では,完全磁気浮上型遠心ポンプHeartMate 3が,ポンプ血栓症,消化管出血,脳卒中,といったhemocompatibilityにまつわる有害事象を著しく減らし,5年生存率でもHeartMate Ⅱを上回ることがMOMENTUM 3試験3)で示され,世界中でHeartMate 3ほぼ一択である。米国においては2018年に臓器移植仲介機関(United Network for Organ Sharing:UNOS)のallocation systemが変更され,心臓移植のドナー配分が植込型LVAD患者には相当不利な状況となった。そのため,移植は大動脈内バルーンパンピング(intra aortic balloon pumping:IABP)などtemporary deviceから,LVADはDTという分離が進みつつあり,INTERMACSではDTが8割近くを占めるようになっている4)。日本では2021年になってようやくHeartMate 3によるDTが承認された。