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海綿状血管腫(動静脈奇形)に対する硬化療法の適応

No.4743 (2015年03月21日発行) P.60

佐々木 了 (KKR札幌医療センター斗南病院形成外科/血管腫・血管奇形センター長)

登録日: 2015-03-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

海綿状血管腫(動静脈奇形)への硬化療法の適応と限界について,最新の知見を。特に,口唇部に存在する直径4cm程度の海綿状血管腫での硬化療法か切除治療かの判断のプロセスと治療の実際について,KKR札幌医療センター斗南病院・佐々木 了先生のご教示をお願いします。
【質問者】
菅原康志:自治医科大学医学部形成外科教授

【A】

いわゆる海綿状血管腫はISSVA(The International Society for the Study of Vascular Anomalies)分類における静脈奇形(venous malformation:VM)であることがほとんどですが,動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)が含まれている症例もあると思います。以下,VMに関して回答させて頂きますが,AVMの場合は基本的に塞栓療法が先行された後にVM同様の治療が追加されるとご理解下さい。
VMの多くは,切除,硬化療法のいずれかまたは両方で治療されます。切除は限局性病変で多用されますが,浸潤性病変では,硬化療法でのコントロールが多くなります。エタノール,ポリドカノールなどの液状硬化剤が主に使用されますが,早期に液体が病変外に流出すると治療効果が減弱するだけでなく全身性合併症も増加するので,NBCA(n-butyl-2-cianoacrylate)という瞬間接着剤を経皮的に使用する場合もあります。海外でゲル状硬化剤の開発・使用例が報告され,いずれ日本でも使用可能となるかもしれません。
硬化療法では血管病変は潰せても,VM周囲の組織肥大や瘢痕化組織は消失しません。これが現状における硬化療法の限界と言えるでしょう。
ご質問の直径4cmのVM病変は成人口唇の3分の2以上を占める巨大なものと思われます。MRIや超音波検査により限局性で筋肉内浸潤がほとんど認められない症例ならば切除(摘出)も適応となります。私は赤唇粘膜切開を好んで用いていますが,表在性病変を併発する症例には皮膚切開を用いることもあります。上記のような限局性病変でも,複数回治療を容認できる患者さんには硬化療法も適応可能です。
一方,口輪筋などの筋肉内浸潤が著しい症例で完全切除を行うと,口唇運動機能が著しく失われるので,硬化療法が優先されます。私は,初回は全身麻酔下に病変周囲の一時的結紮またはクランプを併用して硬化療法(主にエタノール)を行い,2回目以降は患者さんの希望に応じて外来局所麻酔での硬化療法(主にポリドカノール)を追加しています。上口唇の場合,硬化剤が鼻柱や鼻翼に流出すると鼻の壊死・欠損といった重大な合併症をまねくので,硬化療法中には鼻との境界部分を結紮や圧迫で遮断することが重要です。
硬化療法後,画像上で病変がほぼ消失しても,元来ある肥大や治療後の線維化による変形が残存するので,口唇変形の改善を目的に瘢痕性病変の切除を追加します。整容・運動機能ともに満足できる状態が得られるはずですが,再発の可能性は残り,フォローアップが重要です。再発を早期に発見して速やかに硬化療法を再開することで,短期間で良好な状態に戻すことができます。
VM上の口唇皮膚に紅斑が存在する場合は注意が必要です。表在性の毛細血管奇形が深部のVMと連続していることがあり,レーザー治療の効果が悪くなります。硬化療法で表在の色調も薄くなり,レーザーも効きやすくなることがありますが,逆に硬化剤が表面に多く流れることで皮膚壊死に至るリスクも高まります。このような場合は,エタノールは皮膚壊死の頻度が高いので,ポリドカノールなどの使用が好まれます。

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