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血管炎における抗凝固療法

No.4747 (2015年04月18日発行) P.59

川上民裕 (聖マリアンナ医科大学皮膚科准教授)

登録日: 2015-04-18

最終更新日: 2016-10-18

【Q】

PNなどの血管炎で,ステロイドが奏効しない症例での抗凝固療法の開始のタイミング,薬剤の開始量などを具体的にご教示下さい。聖マリアンナ医科大学・川上民裕先生に。
【質問者】
水川良子:杏林大学医学部皮膚科准教授

【A】

PNは,最近では,PAN(polyarteritis nodosa,結節性多発動脈炎)と表記されます。病理組織所見で壊死性血管炎像を認める全身性の疾患ですが,それ以外に診断に直接結びつくマーカー〔antineutrophil cytoplasmic antibodies(A
NCA)のような〕がありません。そのため,確定診断に時間がかかったり,病勢をコントロールするのが困難になりがちです。
ステロイド投与がまず考慮される治療方法ですが,ステロイドだけでは奏効しない症例も数多く存在します。こうした事態が生じてからよりも,私は,むしろPANと確定診断された直後から,ステロイド投与と併用して,その治療の一環として,積極的にワルファリンを中心とした抗凝固療法を導入しています。皮膚症状を持つPANの90%近くに,網状皮斑(リベド)と言われる末梢循環不良を示唆する皮疹を経験しているからです。
ワルファリンの投与方法は,2mg(朝食後,1日1回)内服から開始し,各人のワルファリンに対する反応や治療効果を観察しつつ,かつ出血の頻度(外傷性紫斑や歯ブラシでの出血の有無,女性であれば生理での出血程度など)を確認しながら,1~2週間隔で,慎重に1mgずつ増量しています。効果のマーカーはPT-INR(prothrombin time international normalized ratio)値で,内服患者は診察のたびに必ず測定し,若年者であれば3.0を超す範囲まで,高齢者では2.0前後を最終の目安としています。
PANに対するワルファリン投与で,私が最も注意を払っているのは飲酒です。急激な出血を誘発するので,控えるように指導しています。また,高齢者は肝臓での薬物代謝の遅延,肝臓でのビタミンK依存性凝固因子合成能の低下や加齢での血管の脆弱性から,出血のリスクが高くなるので注意しています。
ワルファリンには,併用によりその効果が増強する薬剤が多くあります。抗真菌薬,抗生物質・抗菌薬,解熱鎮痛消炎薬,消化性潰瘍薬,抗腫瘍薬,抗てんかん薬,抗不整脈薬,催眠・抗不安薬,脂質異常症治療薬などでワルファリン増強作用が知られています。
あまりにも多岐にわたるので,私はワルファリンへの影響の少ない薬剤を覚えています。抗真菌薬ならテルビナフィン(ラミシールR),抗生物質・抗菌薬ならセフポドキシム(バナンR),解熱鎮痛消炎薬ならジクロフェナク(ボルタレンR),消化性潰瘍薬ならラベプラゾール(パリエットR),催眠・抗不安薬ならジアゼパム(セルシンR),脂質異常症治療薬ならプラバスタチン(メバロチンR)が挙げられます。さらに,常にPT-INR値を測定し,ワルファリン増強作用についてチェックを行っています。
ワルファリンの働きを弱めるビタミンKが多く含まれる食事は,通常は控えるように指導しています。納豆(納豆菌が腸内でビタミンK産生),クロレラ,青汁(特にモロヘイヤ原料)は禁忌とされています。ブロッコリーなどの緑黄色野菜は大量に食べなければ大丈夫とされていますが,ワルファリン治療効果の低下,PT-INR値の不安定の一因となるので注意しています。
歯科治療に関しては,以前は事前に休薬するのが当然でしたが,最近の統計学的解析で,PT-INR値2.0~3.0では,休薬に伴う現疾患の悪化のリスクのほうがワルファリン継続に伴う出血のリスクより高いことが指摘され,休薬しない状態で歯科治療をすることが通常となりつつあります。
ワルファリンは胎盤の形成を障害するため,催奇形作用を起こす可能性があります。当然,妊婦へのワルファリン投与はできませんが,妊娠可能な女性のPANでは,まず避妊下でワルファリンを投与し,妊娠希望の段階で,産婦人科の意見を聞きながら休薬しています。
ワルファリン以外の抗凝固療法としては,リポプロスタグランジンE1製剤やアルガトロバン水和物などの静注薬剤を使用しています。また,各種抗血小板薬(バイアスピリンR,クロピドグレル,サルポグレラートなど)の経口薬剤で代用することもあります。
最近,ワルファリンを改良した薬剤として,直接トロンビン阻害薬のダビガトラン,血液凝固第Ⅹa因子阻害薬のリバーロキサバンやアピキサバンが開発されました。これらの薬剤は海外での大規模臨床試験において,ワルファリンと同等またはこれを上回る有効性と安全性が示されています。ワルファリン投与での不備な点(PT-INR値を常に測定しなければならない,納豆などの食事制限など)が不要であり,近い将来,ワルファリンにとって代わると考えられています。

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