【Q】
慢性期病棟の勤務医です。寝たきりの患者で四肢の拘縮がひどく,気管切開チューブの交換のときに拘縮上肢が妨げになることもあり,困っています。ボツリヌス毒素治療も考えましたが,高額で慢性期病棟では使えません。上腕二頭筋の切断を考えていますが,術後患者は筋の断裂に痛みを感じますか。 (北海道 T)
【A】
ご承知の通り,上肢の拘縮よりも痙縮が主たる障害である場合に,ボツリヌス毒素治療は有効です。上下肢痙縮を認める場合,一般病棟,障害者施設等入院基本料を有する病棟,療養病棟入院基本料を有する医療療養病棟では,包括医療の範囲外で診療報酬を請求できます。また,有料老人ホームと介護老人福祉施設へ入所中の外来患者に対しては,出来高で診療報酬が請求可能です。痙縮が著しくチューブ交換の障害となっている筋が,施注の標的筋となります。大胸筋や,上腕二頭筋,上腕筋などがそれにあたります。
図1・2は約15年前に発症した多系統萎縮症で,重度の両上肢痙縮〔筋緊張テストバッテリー(Modified Ashworth Scale):レベル4〕による体幹部への圧迫のある66歳,女性患者です。両側大胸筋,左上腕二頭筋などへボツリヌス毒素を施注したところ,肘関節伸展位保持が得られ,更衣時の介助量が軽減したときの様子です。上肢の肢位が施注の妨げとなっている場合,施注前に入念なストレッチを実施することで,比較的容易に施注可能となります。薬剤効果をできるだけ高めるためには,施注後のストレッチが重要です(文献1~3)。ぜひ,家族や病棟職員へ指導して実施して下さい。
ご質問は,術後の上肢機能を考慮する必要がない症例と思われます。局所麻酔下に,まず上腕二頭筋腱のみを切断してみることも検討できます。上腕二頭筋の切断術により,肘関節の屈曲拘縮の軽減が期待できます(文献4) が,前方関節包の切離を追加すべきか否かは,術中の判断で決定すればよいでしょう。解離術後の疼痛が問題となることは少ない(文献5)のですが,術前から関節症の所見を認める患者では,比較的高率に疼痛が残存するとの報告があります(文献6)。いずれにしても重症例となりますので,侵襲を最小限にする配慮が必要です。
1) Takekawa T, et al:Int J Rehabil Res. 2012;35(2):146-52.
2) Takekawa T, et al:Acta Neurol Belg. 2013;113(4):469-75.
3) 竹川 徹, 他:Jpn J Rehabil Med. 2014;51(1): 38-46.
4) 南村 愛, 他:褥瘡会誌. 2013;15(2):144-8.
5) Gates HS 3rd, et al:J Bone Joint Surg Am. 1992;74(8):1229-34.
6) Urbaniak JR, et al:J Bone Joint Surg Am. 1985;67(8):1160-4.