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悪性度の高い縦隔腫瘍に対する胸腔鏡手術の適応

No.4782 (2015年12月19日発行) P.59

河野 匡 (虎の門病院呼吸器センター外科部長)

登録日: 2015-12-19

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

内視鏡手術用デバイスの進歩,内視鏡手術の技術の向上に伴い,呼吸器外科領域における胸腔鏡手術の割合は増加しています。現在,胸腺腫瘍,縦隔腫瘍に対しても胸腔鏡手術が行われていますが,一般的適応として,良性腫瘍,あるいは胸腺腫を含む浸潤性を内在する悪性腫瘍,あるいは非浸潤性の早期症例に限るというのがおおむねのコンセンサスと考えられます。
浸潤性胸腺腫,胸腺癌などの悪性度の高い縦隔腫瘍に対する胸腔鏡手術の適応はどこまでと考えられるでしょうか。胸腔鏡による縦隔腫瘍手術の経験の多い,虎の門病院・河野 匡先生のご意見をお伺いします。
【質問者】
奥村明之進:大阪大学大学院医学系研究科 呼吸器外科学教授

【A】

胸腔鏡手術の適応は,その施設や術者がどの程度の手技を行うかによって異なります。また,近年はCT検査が頻繁に行われるようになってきているため,術前診断が困難な小型の縦隔腫瘍が偶然発見される機会も増えてきています。さらには,縦隔腫瘍の胸膜播種や肺転移の切除に関してはエビデンスもガイドラインもありません。もちろん腫瘍切除を行うわけなので,安全で確実に腫瘍切除を行うことが大原則ですが,低侵襲で患者に受け入れられやすく,併存疾患の治療や追加治療が速やかに行われる,といった要素も勘案する必要があります。胸腔鏡手術から胸骨正中切開の手術に切り替えることはできますが,切開してしまった正中切開を元に戻すことはできないことも事実です。
虎の門病院では縦隔腫瘍が肺,心膜,横隔神経に進展している場合には,これらの合併切除を胸腔鏡手術で行っています。肺はもちろん自動縫合器で部分切除を行うことが原則です。切除された心膜は心膜パッチを3-0の非吸収性のモノフィラメント糸で縫着してゆるめに閉鎖します。横隔神経についても直接縫合可能なほど伸展している場合には直接縫合しますし,直接縫合が困難な場合には,胸腔鏡手術で十分な長さの肋間神経を採取し,4-0~6-0の吸収性のモノフィラメント糸を用いてインターポーズして修復します(文献1)。
胸腔鏡手術では切除が困難であると考えているのは,大きさや位置により切除の過程で腫瘍の皮膜を破る可能性があると思われる場合と,腕頭静脈や上大静脈の合併切除が必要だと思われる場合です。実際,胸腔鏡手術で始めてみて上大静脈からの剥離が困難であると判断して,体位を替えて正中切開で手術を行ったこともあります。胸骨正中切開で始めてみて,「これなら胸腔鏡手術で切除できたね」と思っても後の祭りです。胸膜播種や肺に転移がある症例については,そもそも切除の適応とすべきか否かを臨床腫瘍科,呼吸器センター内科と検討し,切除の方針になった場合には上記の適応に沿って,できれば胸腔鏡手術で切除を行います。
近年は間質性肺炎,膠原病,腎疾患などで,術前・術後にステロイドの内服が必要な症例や術後の放射線治療を考慮する症例,重度の糖尿病の症例にも切除を適応できれば,その患者にとって有益だと考えられ,紹介されることも増えてきていますが,このような場合には胸骨を切開しない利点がさらに大きくなります。女性が正中の手術創を嫌って手術をためらっているうちに疾患が進行してしまう,という話を聞くこともあります。保険適用にもなっていますし,胸腔鏡手術での縦隔腫瘍の切除の手技も訓練されて実行できる外科医や施設が増えていくことを期待します。

【文献】


1) Kawashima S, et al:Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2015;20(1):54-9.

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