【Q】
手術不能な早期肺癌患者では,体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiotherapy:SBRT)が推奨されています。しかし,手術適応の基準はあいまいであり,また手術ハイリスク患者には縮小手術も試みられています。今後,患者の高齢化やCT検診の普及などにより,ハイリスク患者が増加することが予想されますが,現状における手術とSBRTの適応および治療成績の比較について,山梨大学・大西 洋先生のご教示をお願いします。
【質問者】
武田篤也:大船中央病院放射線治療センター長
【A】
SBRTは,手術不能なⅠ期非小細胞肺癌に対しては第一選択として標準化されつつありますが,手術可能な症例群に対しての位置づけについては多くの議論がなされています。標準手術が可能なⅠA期非小細胞肺癌に対する定位放射線治療の前向き研究は,第2相試験がJCOG0403として世界で初めて日本で行われ,3年粗生存率が76%,3年局所制御率は86%でした。日本の全国調査成績によると,手術による3年粗生存率は85%ですが,JCOG0403症例の中間年齢が79歳と高齢であったため,ほぼ同様の世代の手術成績と比較すると明らかな生存率の差は認められていません。
手術との比較についての高い科学的エビデンス獲得のためには無作為化比較試験が必要になりますが,世界で3つの試験が試みられたものの,いずれも症例蓄積不良により中止されています。患者にとって,自分の治療について手術か放射線治療かがくじ引きで決められることは許容しがたいのでしょう。そこで最近,それぞれの治療成績について大規模なメタアナリシスの結果が報告されており,患者背景をマッチングさせた結果(特に高齢者において),定位放射線治療成績と手術成績との間の明確な生存率の差は明らかになっていません。特に,手術ハイリスク患者においては,縮小手術成績との比較において安全性の上で定位放射線治療の有用性が唱えられています。
National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインにおいては,手術不能な場合や手術拒否の場合には,標準手術に匹敵する可能性のある代替治療方法として,また手術がハイリスクな場合には縮小手術に匹敵する治療効果が得られる治療方法として提示されています。無作為化比較試験が困難な状況において,それぞれのデータについて十分な説明のもとに患者ごとの判断によって治療方法が選択されるべきであると考えます。今後は,年齢の若い症例における手術と定位放射線治療の比較も重要になると考えられます。
ただし,定位放射線治療は肺門や縦隔に近い場合には,通常の定位照射の分割では十分な線量を処方できない場合があり,肺間質性変化を合併している症例では治療後の放射線肺障害の重篤化が問題になる場合もあり,注意が必要です。
つい先日,前述した症例蓄積の低さで中止になった「Ⅰ期非小細胞肺癌に対する手術と定位放射線治療の無作為化比較試験」のうちの2件の試験にわずかながら登録された症例(手術27例,定位放射線治療31例)を合計して分析した結果,定位放射線治療のほうが手術よりも有意差をもって生存率が高いことが報告されました(文献1)。症例数が少ないのでエビデンス度は高くはありませんが,衝撃的な成果として注目されています。
1) Chang JY, et al:Lancet Oncol. 2015;16(6):630-7.