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腎機能障害者への抗菌薬投与量の決定方法【急性腎障害と慢性腎臓病を見きわめて対応する】

No.4787 (2016年01月23日発行) P.56

内田大介 (聖マリアンナ医科大学腎臓・高血圧内科)

登録日: 2016-01-23

最終更新日: 2018-11-27

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【Q】

重症敗血症の患者や高齢者などでは,感染症の治療開始時に腎機能障害を有する症例が多くみられます。透析を行う場合にも,様々な透析条件によって,投与量をどのように設定し,投与量を決定するにはどのようなリソースを利用するか,悩みを有する読者も多いのではないでしょうか。バンコマイシンなど,治療薬物モニタリング(therapeutic drug monitoring:TDM)により,日常診療でどのようにして投与量を決めるか,他の専門医のやり方を知りたいところです。
腎機能障害者の抗菌薬の投与法,投与量調整について,感染症内科フェローを修了され,現在は腎臓内科医として第一線で診療されている聖マリアンナ医科大学・内田大介先生のご教示をお願いします。
【質問者】
岡 秀昭:JCHO東京高輪病院感染症内科医長

【A】

臓器灌流を把握する上で,腎機能は非常に鋭敏とされており,敗血症などの血行動態が変化しやすい状況では,最も影響を受けやすい臓器です。また,サイトカインなどにより輸出・輸入細動脈両方が拡張し,糸球体内圧が低下し,腎障害をきたします。いわゆる敗血症性急性腎障害です。このように腎機能は急に変化するにもかかわらず,時に血清クレアチニン(sCr)値の変動までに時間差を生じることがありえます。急性腎障害(acute kidney injury:AKI)の際の評価方法としては,尿L-type fatty ac-id binding protein(L-FABP)やneutrophil gelatinase-associated lipocalin(NGAL)などの尿中バイオマーカーをはじめとした指標が指摘されていますが,いまだに臨床応用には至っていません。
現在のAKIの診断基準としては,以前に提唱されたRIFLE基準とAKIN基準を組み合わせたKDI
GO基準が2012年に提唱され[注],以下に示す3項目のいずれかにより定義されていますが,特に(1)や(2)のようにリアルタイムで判断ができません。
(1)48時間以内にsCr値が≧0.3mg/dL上昇した場合,(2)sCr値がそれ以前7日以内にわかっていたか予想される基礎値より≧1.5倍の増加があった場合,(3)尿量が6時間にわたって<0.5mL/kg/時に減少した場合。
sCr値だけではなく,時間当たりの尿量を指標に,特に0.5mL/kg/時未満の尿量であればAKIが存在しているという認識が必要です。
AKIが併存している状況では,腎障害の程度を正確に評価することは非常に困難です。多くの抗菌薬は腎障害の程度で用量調整や投与間隔調整が必要であることから,AKIでは抗菌薬の過大投与とも過小投与ともなりやすいのです。肝代謝など腎障害の程度での調整が不要な薬剤,もしくは,ある程度の過大投与でも臨床的に有害となりにくい薬剤を選択することとなります。
βラクタム系抗菌薬は,一般的には倍量投与となっても副事象が出にくいとされています。たとえば,ペニシリン系などによる痙攣は通常濃度の80倍近くで生じます。よく指摘されるペニシリンなどのβラクタム系抗菌薬による腎障害(急性間質性腎炎)はⅡ型のアレルギーで,用量非依存性であることから,用量と腎障害との関係性はありません。同様に,キノロン系のQTc延長には通常量の1.5倍程度が必要になります。これらの薬剤であれば,やや過大投与となることも見越して,sCr値をもとに投与量を調整し,まったく無尿であればそれ以上に減量を考慮しています。
逆に,治療濃度と副事象が出現しやすい濃度の幅が狭い薬剤とは,アミノグリコシド系やバンコマイシンなどです。一般的には,TDMが必要な薬剤がこれに該当します。これらの薬剤はAKIが併存している状況では使用を避け,可能であれば別の薬剤を検討したいものです。しかし,あくまでも感染症の治療を優先させなければならないため,第一選択薬よりも明らかに劣性が示されている薬剤をAKIのために選択するべきではありません。施設で異なるものの,迅速な血中濃度の測定が可能であれば,繰り返し測定を行い,適切な治療濃度を維持できるように努めます。
以前から腎障害が指摘されており,その程度にも変化がなければ,慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)として対応します。投与方法や投与量などは文末に示した参考文献をもとに判断します。
なお,腎機能の評価で用いられている体表面積で補正した推算糸球体濾過量〔estimated glomerular filtration rate:eGFR(mL/分/1.73m2)〕は,体格が小さな高齢者では過大投与となる可能性があり,各患者での身長や体重から体表面積補正を外したeGFR(mL/分)を用いる必要があります。
透析患者に対する抗菌薬投与も記載の通りではありますが,一律に透析患者でも,残腎機能,透析効率,体重計算でも水分過剰などの兼ね合いによる分布容積の違い,ということから各々で異なっています。持続的血液濾過透析(continuous hemodiafiltration:CHDF)であっても保険用量内の透析効率は,海外とは異なります。しかし,透析患者はいわゆる腎死の状態であり,残腎機能が保持されたほうが好ましいものの,腎機能が喪失しても臨床的に問題はありません。たとえば,バンコマイシンの腎障害以外の副事象としては,聴毒性と骨髄抑制が挙げられますが,いずれも濃度依存性の副事象であるかは不明確です。バンコマイシンに関しては,初回1g投与以降からは,毎透析後に0.5gを追加投与しながら血中濃度を確認するといった方法でも,ある程度の適切な濃度が維持されることが指摘されています。
なお,初回の投与量は腎障害の有無にかかわらず通常用量で行います。また,透析によって薬剤除去が行われることから,追加投与の手間を選択するよりも,可能であれば透析後に投与して時間調整を行っています。
腎不全への抗菌薬の投与の詳細が掲載されている参考文献を文末に紹介します。
[注]
・ Acute Kidney Injury Definition and Staging accord-ing to Risk/Injury/Failure/Loss/End-stage (RIFLE)
・ Acute Kidney Injury Network (AKIN)
・ Kidney Disease:Improving Global Outcomes (KDIGO)

【参考】

▼ Gilbert DN, et al, ed:The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy. 45th ed. Antimicrobial Therapy, 2015.(Gilbert DN, 他, 編:日本語版サンフォード感染症治療ガイド2015. ライフサイエンス出版, 2014.)
▼ Drug Information Handbook:A Clinically Relevant Resource for All Healthcare Professionals. 24th ed. Lexi Comp(Corporate Author), 2015.
▼ Ashley C, et al, ed:Drug Handbook:The Ultimate Prescribing Guide for Renal Practitioners. 4th ed. Radcliffe Publishing, 2015.
▼ Grayson ML, et al:Kucers' The Use of Antibiotics:A Clinical Review of Antibacterial, Antifungal and Antiviral Drugs. 6th ed. CRC Press, 2010.

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