【Q】
橈骨遠位端骨折に対する手術治療は,掌側ロッキングプレート(volar locking plate:VLP)の登場で確立されているかのように思われています。しかし関節内骨折において,関節内のgap,steppingを残すと,変形性関節症への進行が危惧されると報告されています。防止策として,関節鏡を用いて関節面を整復し,内固定を行う鏡視下骨接合術が行われています。
そこで橈骨遠位端骨折の関節鏡視下整復術内固定術の,AO骨折型などによる適応,その限界,手術手技,問題点などについて,山口県済生会下関総合病院・安部幸雄先生のご教示をお願いします。
【質問者】
坪川直人:新潟手の外科研究所所長/新潟手の外科研究所病院院長
【A】
[1] 橈骨遠位端骨折における鏡視下手術の適応
関節内骨折の予後を左右する因子のひとつとして関節内骨片の正確な整復があり,橈骨遠位端骨折もその例外ではありません。透視下での整復のみでは必ずしも関節内骨片の整復が十分に得られるとは言えず,鏡視下整復術の適応となります。AO分類ではB, C typeが関節内骨折であり,その適応となりますが,A typeの関節外骨折でも合併する舟状月状骨靱帯や三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)損傷の評価と処置に鏡視が必要となります。
[2]手術手技
観血的固定術は昨今,整復位の維持に優れているVLP固定が主流となっています。VLP固定において鏡視下手術の併用は煩雑となります。なぜならプレート設置は水平位,関節鏡手技は垂直牽引下での手技となるため,頻回の肢位の変更を強いられるからです。私たちは,はじめに透視下においてアライメントを可能な限り整復し,VLPを仮固定したのちに鏡視下手術を導入する手法(plate presetting arthroscopic reduction technique:PART)を開発し,実施しています(文献1)。その利点としては,肢位の変更が原則1回ですむこと,大まかな整復は透視下に得られているため鏡視での整復は関節内骨片の調整に限られること,などが挙げられます。
[3]鏡視を行う利点
これまで300例を超える鏡視下手術を行ってきたことによって明らかとなった点は,以下の通りです。
(1)関節内骨折例の1/5強にイメージのみでは把握困難な関節面のgap,step-offがあり,これらの多くで鏡視下整復が可能であった。
(2)関節内骨折例の10%強にX線では把握困難な関節内遊離骨片があった。
(3)スクリューの関節内突出あるいは関節軟骨の持ち上げを把握できた。
(4)関節内外骨折を問わず,約1/3の症例に舟状月状骨靱帯損傷の合併を認め,約10%の症例ではGeissler分類grade 3,4であった。
(5)関節内外骨折を問わず,外傷性TFCC損傷の合併を40%強の症例に認めた。これらの損傷は特に関節外骨折において予後を左右する因子となる恐れがあった。
(6)関節軟骨のgapの残存は関節内の線維組織の増生を生じ,関節拘縮をきたすことがあった。
(7)鏡視併用にてVLP固定を行い術後1年以上経過観察が可能であった追跡例の最終成績は,文献報告による鏡視を行わないVLP単独固定と比較し良好であった。
[4]限界および問題点
関節内の高度の粉砕例では整復は困難であり,鏡視下手術の限界と言わざるをえません。手技に精通すれば鏡視併用による問題点は特に見当たりません。
1) Abe Y, et al:Tech Hand Up Extrem Surg. 2008;12(3):136-43.