【Q】
腰痛を訴える患者の中には,朝一番が最もひどく,なかなか痛みで起きられない人がいます。このような症状はなぜ起きるのでしょうか。また,どのように対処していくのがよいのでしょうか。東京医科大学・大瀬戸清茂先生のご回答をお願いします。
【質問者】
伊達 久:仙台ペインクリニック院長
【A】
患者の訴えに多いのが,「朝,起きがけの腰痛が辛い」というものです。この腰痛は,起きて動き出してしまうと,しだいに痛みが薄らいで,そのうち痛みが軽減,またはなくなってしまい,活動ができるようになります。ちなみに英語では“morning low back pain”と言います。
一般的に,夜間,就寝中は安静を保っているはずなので,朝の腰痛は改善していそうなのですが,実際には起床時に腰痛が辛く起き上がれない患者が実に多くいます。中には,腰痛で目が覚めてしまう人もいます。
一般的な基礎疾患として,変形性腰椎症(腰椎の変形,椎間関節や椎間板などの痛み),腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,すべり症,分離すべり症,骨粗鬆症による圧迫骨折後の脊椎変形,筋筋膜性腰痛などの症例で多く経験します。これらを考慮して治療を考える必要があります。変形膝関節症でも動かさないでいると,痛みが強くなります。腰椎も,椎間板と2つの椎間関節で構成される3関節複合体と考えられますので,同様に,夜間,動かさないでいると,関節,靭帯,筋・筋膜などが固まってしまい,朝動かすときに痛いことが考えられます。
また,椎間板内圧は,寝ているとその内圧が最も低く腰痛があまり生じないように考えられますが,実際はヘルニアや椎間板症の場合に朝の腰痛は多いように思われます。私は,日中,椎間板内圧が高く水分が外に押し出されていたのが,圧の低い夜間に椎間板内に溜まる可能性があり,それで内圧が高まって腰痛を引き起こすのではないかと想像しています。
また,痛みで眠れないほどではない腰痛の場合,夜間寝ている間は,痛みを意識せずにいます。しかし,起きたときは痛みを意識してしまい,よけい痛くなることも考えられます。そして,痛みというストレスでその抑制系の賦活が生じて,痛みがしだいに軽減することも考えられます。
そのほかに,以下のような原因も挙げられます。
(1)良くない寝方:寝ている姿勢に問題があるために,朝腰痛が起こることがあります。
(2)腰に疲労が溜まりすぎている:仕事や運動を激しくしすぎると,腰に疲れが溜まり,朝腰痛が起こりやすくなります。
(3)寝る前や前日の姿勢が良くなかったための影響:庭の草むしりのような姿勢を持続していると朝腰痛が起こることがあります。
(4)内臓に疾患がある:胃潰瘍や十二指腸潰瘍,膵炎や腎臓癌などに罹患していると,朝起きたときに腰が痛いという現象が起こりやすいと言われています。この場合は,内臓疾患の専門医療機関を受診すべきでしょう。
対策として,ベッドのマットレスを柔らかいものより硬めのものにすることも一法です。朝起きたときベッドや寝具の上で,体を前後左右にゆっくり揺らしてほぐします。次に片足の膝を90°曲げた状態で持ち上げ,そのまま外側に倒します。同様に反対側も行います。腰が伸びない人が多いので,しばらく腰を曲げたままにして,その後にゆっくりとストレッチなどの体操をするのもよいでしょう。
薬の投与としては,寝る前に鎮痛薬を服用したり,起きたらすぐに鎮痛薬を服用して痛みを軽減してから体操を行うなどの方法もあります。脊柱管狭窄症では,脊柱管内の循環障害も考えられる場合は,寝る前に芍薬甘草湯やサルポグレラートなどの血流改善薬を服用する場合もあります。
以上,“morning low back pain”について述べました。いずれもはっきりとした根拠のない説明で,治療も受け売りの部分もありますが,多少は私が現在行っている方法です。もう少し良い対処法を行っている方がいれば,フィードバックをお願いしたいと考えています。