【Q】
パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)に対する脳深部刺激療法(deep brain stim-ulation:DBS)が保険適用されて今年で16年になりますが,適応と予後,PD治療全体の中での最近の位置づけや今後の外科治療の発展性はどのように考えられていますでしょうか。北野病院・斎木英資先生のご回答をお願いします。
【質問者】
前田哲也:秋田県立脳血管研究センター神経内科 診療部長
【A】
DBSは脳の深部に植え込んだ電極を用いて持続刺激を行って症状を改善する対症療法で,心臓ペースメーカーと類似の機器が用いられます(図1)。PDの場合には,両側の視床下核(subthalamic nucleus:STN)もしくは淡蒼球内節(internal segment of globus pallidus:GPi)に電極が植え込まれます。
PD発症後,数年間は少量のドパミン受容体刺激薬やL-dopaで安定した症状改善が得られます。進行に従ってドパミン神経脱落が顕著となるため,L-dopaの効果が短縮して効果の切れ目が生じるウェアリング・オフ現象や,薬剤服用後にジスキネジアと呼ばれる舞踏様の不随意運動がみられるようになります。これらに対して,薬剤の血中動態を安定させて改善する薬剤調整が試みられますが,症例によっては十分なコントロールが得られません。DBSは,ウェアリング・オフとジスキネジアを大きく改善します。
両側視床下核に対するDBS(STN-DBS)はオンと呼ばれる薬が効いている時間を2.7倍に延長してオフと呼ばれる薬が効いていない時間を2/5に短縮し,薬剤必要量も2/3程度に低減します。ジスキネジアは,薬剤の減量によって間接的に改善します。両側淡蒼球内節に対するDBS(GPi-DBS)はオンを2.3倍程度に延長し,オフを2/3に短縮するものの薬剤は通常減量できません。しかし,ジスキネジアに対する直接抑制効果があり,GPi-DBS後はジスキネジアはほぼ消失します。STN-DBSの特徴は顕著なオフの改善と薬の肩代わり効果であり,GPi-DBSの特徴はオフの改善と直接的なジスキネジア抑制効果です。
DBSは侵襲的な治療であるため合併症のリスクを伴い,合併症は手術関連と刺激関連に大別されます。手術関連合併症は頭蓋内出血と機器感染が主ですが,わが国ではいずれも2~3%以内とされ,十分に低いと考えられます。刺激関連としては遂行機能低下や抑うつ,衝動制御障害の悪化などの精神合併症が知られています。刺激関連合併症は導入前の認知・精神機能と関連があり,認知機能に十分な予備能があり,潜在的な抑うつ,不安,衝動制御障害が存在しないか,コントロール下にあることが,合併症発現のリスク低下につながると考えられています。手術関連合併症のリスクは,STN-DBSとGPi-DBSで同等であり,刺激関連合併症のリスクは,STN-DBSよりもGPi-DBSのほうがより低いことが知られています。
DBSは視床下核に対する定位脳手術法として開発されたため,これまではDBSのほとんどはS
TN-DBSでした。最近は,リスクとベネフィットを勘案して以下のように使いわけされるようになってきています。
・STN-DBS:比較的若く,今後も治療期間が長い患者の,薬で十分改善困難なウェアリング・オフ。典型的な臨床像としては50歳代までに発症し,罹病期間は10年近辺。
・GPi-DBS:STN-DBSよりも高齢で発症した患者の,薬で十分改善困難なウェアリング・オフとジスキネジア。
手術時年齢としてはSTN-DBSでおおむね65歳以下,GPi-DBSで75歳以下が推奨されますが,生物学的年齢やPDと無関係な身体合併症も考慮する必要があります。
DBSは導入後10年経過後も有効であることが報告されており,効果は基本的に永続的と考えられています。DBSによる運動症状の改善にPDの進行が追いつくまでの年数は平均7~8年とされていますが,若い患者ではよりDBSの治療効果が高いことから,日常生活動作の改善をより長く保てる可能性があります。このため,特にSTN-DBSの適応がある場合,早期に導入して薬剤療法と併用するのが有用であると考えられています。