【Q】
いわゆるレストレスレッグス(むずむず脚)症候群(restless legs syndrome:RLS)には,様々な症状があると聞いている。重症の場合は「むずむず感」だけでなく,痛みを伴い,睡眠障害も著しいと聞く。この特徴と治療について。さらに近年わが国で保険適用となった薬剤の使い分けにポイントがあれば。 (大阪府 T)
【A】
[1]RLSの特徴
国際診断基準によれば, RLSは,(1)脚を動かしたいという不快な下肢の異常感覚,(2)その異常感覚が安静中に始まる,あるいは増悪,(3)運動によって改善,(4)日中より夕方・夜間に増悪,という4つの特徴からなる。
RLSの有病率は欧米で5~15%とされ,わが国では2~5%と考えられている。これは,不眠症,睡眠時無呼吸症候群などについで頻度が高い。約6割に家族歴がみられ,関連した遺伝子変異が存在することが報告されている。脳血管障害,パーキンソン病,多発神経炎に併発することも多いほか,慢性腎不全,特に透析患者,鉄欠乏性貧血,妊娠中など,鉄の欠乏が起こりやすい状態で多くみられる。また,RLSは女性に多く,加齢により有病率の増加傾向がみられる。
RLSにより種々の不眠が起こる。入眠障害,中途覚醒が多い。さらに不眠により必要な夜間睡眠量が確保できないため,日中の眠気が生じる。
注意すべきことは,患者は不眠によって異常感覚が生じていると思い,不眠のみを訴えて異常感覚については訴えないことがある点である。不眠患者に対しては,下肢の異常感覚について詳しく問診することが重要である。
[2]RLSにおける脚の衝動機序
RLSにおいて脚を動かしたくなるメカニズムは次のように説明される。安静中の骨格筋で発生したRLSの異常知覚(侵害受容性知覚)が,冷温覚ルートである有髄神経線維を通り,脊髄後根細胞を経由して皮質感覚野に伝わり,むずむずする,熱い,深部がかゆいなどの特有な異常感覚を生じる。一方,固有知覚は骨格筋から無髄神経線維を介して伝達し,運動による骨格筋の収縮・弛緩などの情報を脳に伝えると同時に,脊髄後根細胞の感受性を抑制する。つまり,運動により固有知覚系の刺激が増加すると,一方の侵害受容性知覚が抑制され,異常感覚が大脳皮質の感覚野に伝わりにくくなる(図1)(文献1,2)。運動により症状が軽快するのはこうした機序と考えられる。つまり,不快な感覚を和らげようと脚を動かしてしまうことになる。
A11と呼ばれる視床下部のドパミン神経核は脊髄後根細胞に抑制的に働くが,鉄の利用ができない状態になるとドパミン産生が低下し,脊髄後根細胞を抑制する機能が低下し,RLSが起こると考えられている。ドパミン受容体作動薬の作用は,こうした機能を改善することによるとされている。RLSにより睡眠が障害され浅くなり,量的に不足してくると,不快な知覚に対する脳の感受性がより敏感になることも考えられている。
[3] RLSの治療法と薬剤の使いわけ
RLSの非薬物療法として,カフェイン,アルコール,ニコチンなど,交感神経を亢進させ骨格筋に生じる異常感覚を増悪させる可能性のある嗜好品を避けることが挙げられる。さらに,温浴・冷シャワーは,冷温覚ルートである有髄神経線維を通って伝達されるRLS症状を冷温覚に関する情報で置き換える方法と考えることができる。運動やマッサージは固有知覚を刺激することで,固有知覚系の情報を増加させて脊髄後根細胞を抑制するため,異常感覚の改善が期待できる。
RLSの薬物療法としては,種々の作用点の異なる薬剤が臨床において用いられている(表1)(文献3)。プラミペキソールやロチゴチンなどの非麦角系ドパミン受容体作動薬は視床下部のドパミン神経系に作用し,有効性を示す。ただし,嘔気・嘔吐,眠気,めまい,疲労感などの副作用に注意が必要である。
日中にも症状が出現する場合には,貼付薬で1日にわたり安定した血中濃度を保つことができるロチゴチンが適している。鉄はドパミン合成に促進的に働くため,血中フェリチン値が低下している場合は鉄の補充療法が行われる。
抗てんかん薬であるガバペンチンのプロドラッグとして開発されたガバペンチンエナカルビルは,皮質感覚野の感受性亢進を抑制すると考えられる。痛みなどの不快な感覚の知覚を抑制する働きを持つために,特にRLSで有痛性の感覚を訴える場合に有用とされている。ガバペンチンは健康成人で深睡眠を増加させるとの報告があり,RLSの睡眠不足に関連した不快な感覚に対する脳の感受性亢進に対して抑制的に作用する可能性も考えられている。
クロナゼパムやニトラゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬剤はRLS患者の睡眠の質を改善する。しかしRLS症状の主観的評価に対しては軽度の改善か有意差を示さない(文献4)。このため,ベンゾジアゼピンはRLS患者の睡眠維持目的で使われることが多い。これらは不眠の改善やRLSに合併しやすい周期性四肢運動障害を減少させるが,RLS症状への直接的な効果は少ないと考えられている。
オピオイド系薬剤には骨格筋からの痛覚刺激を遮断する作用があり,一時的な効果は高いものの,長期的に特有な副作用や依存性の懸念があり,日常臨床では使われない。
1) Clemens S, et al:Neurology. 2006;67(1):125-30.
2) 内山 真:PHYS-ICIANS' THERAPY MANUAL. 2012;9:2.
3) Garcia-Borreguero D, et al:BMC Neurol. 2011; 11:28.
4) 井上雄一:睡眠障害の対応と治療ガイドライン. 第2版. 睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会,編. じほう, 2012, p223-7.