【Q】
Aの出資で甲という会社を設立し,B,Cの両氏はAとともに役員として会社登録した。甲は事業として乙という地主の経営会社から24人入居できる高齢者専用住宅を一括借りした。賃貸契約は15年で,乙に対し,A,B,Cは連帯保証人になっている。
事業の開始半年後に,Cは自分の経営する会社が経営不振で,民事再生が適用されるか,破産するかという状態という。
(1) Cは甲,乙両社に対し,自分を連帯保証人から外してほしいと申し出た。甲の連帯保証人のままなら,自分の経営する会社が倒産してしまうという。この場合,Cの会社の経営不振は甲の連帯保証人をやめる理由になるか。法的関係を。
(2) 乙は甲の実質的な所有者のAに対し,Cに代わって能力ある新しい連帯保証人を立ててほしいと申し出た。甲は乙に対し毎月の賃料は延滞なく支払いしているため,連帯保証人の交代,変更は必要ないと思っているが,甲は乙の要求に対し,新しい連帯保証人を探す義務があるか。もし,甲が義務を果たせなくなった場合,乙はどのように対応することができるか。
(3) 乙の施設建設に1億円かかり,その中の2000万円は甲が建設協力金として出資し,契約の15年間に家賃分から相殺してもらっている。もし乙が保証人のことで信頼関係をなくし,甲との契約解消を望んだ場合,甲としては,乙は協力金を全額返還すべきと考えるが,いかがか。甲は15年間事業を継続した場合に得られるはずだった利益の損失を,乙に要求できるか。 (大阪府 W)
【A】
本問は,高齢者専用住宅の転貸事業を営む会社の建物賃貸借契約上の債務にかかる連帯保証人の連帯保証契約の解約等が問題となる事案である。
連帯保証人の契約関係は,一般に,債務者(本問では甲)と債権者(本問では乙)との間に保証人を立てる旨の契約(立保証契約),債務者と保証人(本問ではA,B,C)との間の保証委託契約および保証人と債権者との間の保証契約が存在することが前提となる。
保証人に関する民法上の定めとしては,債務者,保証人間の求償関係等については規定があるが,保証契約の解除,解約に関しては特別の規定が置かれていない。そこで,どのような場合に保証契約を解約できるかは,保証契約の内容により,また,契約法の一般原則(信義則,事情変更の原則等)により個別に判断するほかない。
(1)法的関係
保証契約において,保証人はいつでも,または,一定の事由が発生した場合には,保証契約を解約できる旨の定めがあればそれによるが,一般的にはそのような定めはないから,保証人本人が経済的に破綻する恐れがあることを理由に,保証人側から解約を申し入れることはできない。このような事態が予想される場合,むしろ債権者から債務者に対し,新たな保証人を立てることを要求されることが少なくない。
(2)連帯保証人の交代の必要性
保証人が経済的に破綻し,保証能力を欠いた場合に,債務者は新たな保証人を立てる義務があるか否かは,立保証契約の内容による。もっとも,立保証契約上明文の規定が存しない場合においても,当該賃貸借契約の経緯等に鑑み,保証能力を有する保証人を立てる必要性があるなど特段の事情が認められる場合には,債務者は新たな保証人を立てる義務があるとされる場合も考えられる。
債務者にかかる義務が認められる場合において,これを履行できない場合に,債権者が賃貸借契約を解除できるか否かは,主たる債務の履行状況等を勘案し,債務者が新たな保証人を立てないことが,著しい背信行為となるか否かにかかるものと考えられる。
もっとも,本問の保証は賃貸借契約上の将来発生することが予想される債務を保証するもので,いわゆる信用保証と称されるものであり,本事案においてはいまだ具体的な債務が生じていないものと考えられること,および未相殺の建設協力金相当額が事実上担保となっていることから,複数の保証人の1人が欠けることをもって,直ちに当該賃貸借契約自体の解除が認められるとは考えにくい。
(3)得べかりし利益の返還
保証人に関して信頼関係が失われ,当該賃貸借契約が合意解約される場合の建設協力金の返還については,合意解約の内容として決められる。他方,債務者の債務不履行により契約が解除された場合の建設協力金の返還は,当該賃貸借契約に定められたところによる。
何らの定めがないときは,建設協力金(賃貸借契約とは別個の金銭消費貸借と考えられる)の返還については,債権者に期限の利益があると考えられることから,その返還期限が定められている場合には(本問では,15年で返還することが予定されている),一般的には,その期限到来までは返還を受けられないものと考えられる(本問では,家賃と相殺するとされている額について,毎期返還を受けることになる)。
なお,契約解除により賃貸借契約が終了する場合,債務者は将来にわたって当該転貸事業による収益を失うことになるが,債務不履行による解除は債務者に帰責事由があることから,債務者は当該転貸事業により,得べかりし利益を債権者に請求することはできない。