お知らせ
超音波検査士の患者説明に関する教育や倫理規定
【Q】
腹部超音波検査を2つの医療機関で受けた。A医療機関では，検査についての丁寧な紹介があり，検査中も「横を向いて下さい」「息を止めて下さい」などの指示があったため非常にわかりやすく，快適であった。このとき，腎結石が見つかると結石の様子を見せてくれ，そのあとで医師から詳しい説明がなされたため，非常に満足度の高い検査となった。一方，B医療機関では，検査者は，ただ「横を向いて下さい」「息を止めて下さい」などと命令するだけで，説明がないため，どこをどのように検査しているのかまったくわからない状態であった。患者というより，物か検体という感じがした。「どこを検査しているのか」と尋ねてみると，「検査中は聞かないで下さい」と不機嫌な態度をとり，かつ，そのほかの説明は結局一切なかった。
このような患者に対する説明について，超音波検査士の教育や倫理規定などはどのようになっているのか。（千葉県 M）
【A】
（1）超音波検査士による検査説明と接遇教育について
検査内容や説明，これをすべての患者に対して毎回同じ内容で漏らさず行えているかは，担当技師の技量によって異なる。熟練した技師は，検査中にタイミング良く呼吸調節や体位変換の必要性について会話の中で説明している。検査を1人で行えるようになるまでは，「先輩のやり方を見て覚えて実践しなさい」方式で指導する施設が多いと思う。指導者はアプローチおよび走査方法，描出画像の調整は丁寧に教えるが，会話術まで教えることはなく，この部分は学習する個人のスキルと考える。1人で検査ができるようになってしばらくは，連続する検査の中で，精度を保ちながら集中するあまり余裕がなくなることもしばしばある。その際，患者にぞんざいな扱いをされたと感じとられることは，実際にはありうることであろう。
高い医療の質と技術を備えていても，一部の職員の言葉づかいが未熟であることで，医療機関全体の評価が低くなってしまうことは避けなければならない。管理者としては，突然発生する患者からの発言や投書で初めて問題を知るケースが多いが，その前に同僚が気づいているはずである。小さな黙認が重なると，必ずインシデントの発生につながる。
言葉がコミュニケーションの重要な要素であることを再度認識する機会は「今」であり，筆者はその都度，指導している。また，患者個々の事例・事情を理解した上で対応改善を求めた内容は，スタッフ全員が共有して次に備えなければ意味がない。
（2）超音波検査（超音波検査士）に関する倫理規定
A医療機関の対応は，一見して完璧であり，患者満足度は高いように思える。技師が腎結石と判断した内容についてその様子を見せる行為については，患者にとって感動ものであり満足度はアップ，さらにあとから説明した医師は，診療支援として受けとめて感謝をしているであろう。
しかしながら，本行為は医師法第17条（医師でない者による医業の禁止）に抵触する内容と判断される。すなわち，厳密な意味ではA医療機関の医師は越権（違法）を容認していることになる。患者は，検査を含めて医療のこと，過去の検査結果（または前医の結果），超音波検査で何がわかるか，そして検査が終了した時点で結果が出ていることを知っている。
超音波検査では「見えたもの＝診断にせまる所見」となることが多く，説明には慎重を要する。場合によっては診療の妨げになることもある。「特に異常はみられませんでした」の説明も診断に値するので，A医療機関では検査中の会話および検査報告の手順を含めて検討する必要があるかもしれない。B医療機関では，単に「検査中は聞かないで下さい」ではなく，「私たちが検査結果について説明することは，できないんですよ。この検査のほかにX線や血液の検査とあわせて総合的に判断して，あなたの主治医が説明して下さいます」と対応することが望まれる。伝え方によって，相手に与える印象が大きく異なることを考えておく必要があるだろう。
最後に，現場経験が豊富な技師の中には，医師よりも眼力に優れた技師もいると思うが，検査のプロとは，検査機器を安全に使い，かつ医師が治療方針を誤らないように「正確な検査結果を出す」者のことであると考える。
【参考】
▼ 高橋秀一:超音波検技. 2009;34(5):581-8.
