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国内外におけるじゃんけんや指切りの種類と普及

No.4753 (2015年05月30日発行) P.68

飯島吉晴 (天理大学文学部歴史文化学科考古学・民俗学 専攻教授)

登録日: 2015-05-30

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

じゃんけんや指切りは日本固有の文化であると思っていましたが,最近米国のテレビ番組でじゃんけんをしているのを見ました。また,約束をする際に小指を絡ませて指切りをしているシーンがありました。以下についてご教示下さい。
(1) じゃんけんはいつの間に世界に広まっていたのでしょうか。それとも,世界各国で以前より行われていたのでしょうか。
(2) 国内の各地のかけ声の種類はどのくらいあるのでしょうか。1945年頃,岐阜では「いんじゃんせ」,広島では「やっとんせ」であったようです。
また三竦みの勝負はじゃんけんのほかに「清正,清正の母,虎」などがありますが,それ以外にもあれば知りたいと思います。
(3) 指切りはどの国で成立した習慣なのでしょうか。
(東京都 I)

【A】

(1)じゃんけんの普及
じゃんけんは,幕末から明治時代にかけて日本で発明された遊びであり,その成立は比較的新しいとされています(文献1)。鎖国政策の行われていた江戸時代に,海外に開かれていた長崎で,中国人から遊郭の遊女に伝えられた本拳や長崎拳といった数拳から発展したものが,じゃんけんなのです。じゃんけんは,三竦み拳の中の石拳(石・紙・鋏)に数拳の手の形(握る・開く・二本指を出す)やかけ声を結びつけて子どもたちが考案し,酒宴での大人の遊びが日常的な子どもの遊びとなりました。
じゃんけんは,いつでも,どこでも,簡便で公平に順番や勝ち負け,鬼を決めることができるために,20世紀に入ると日本人の移民や海外進出に伴って外国にも広がり,最近では漫画・アニメ・ゲームなどの日本のサブカルチャーの普及に伴って世界各地に広がっています。2002(平成14)年には,じゃんけんの世界大会を開催するため,カナダでWorld Rock Paper Scissors Society(WRPS)も結成されたといいます。
(2)じゃんけんのかけ声の種類
じゃんけんの語源は,両拳,鋏拳,石拳,蛇拳,猜拳など諸説があり不明です。じゃんけんが真剣に公正に実施されるためには,かけ声をかけて呼吸を一致させる必要があります。かけ声の種類は,三竦みの種類と同様に地域や時代によって多様であるため,はっきりと言うことは不可能です。
たとえば,筆者の故郷の千葉では,「チッケッ,タッ」と言っていました。また,かこさとしの『子どもと遊び』(文献2)によれば,「リャンケン,ホイ」「チッチッ,チ」「カッチのホイ」「シッケン,ホイ」「ワンケン,ポッ」「ジャラケン,ホイ」「チョンチョのパッ」「ジャカジャカ,ハッ」などが挙げられています。こうしたかけ声の代表が,「ジャンケン,ポイ」なのです。
じゃんけん自体にも「グー,チョキ,パー」「グリコ,パイナップル,チョコレート」「クロベエ,ベティ,チョビスケ」「グロンサン,パンシロン,チオクタン」などの各時代を反映した三竦み構造が子ども集団によって創造されてきました。
このほか三竦み拳には,庄屋拳・藤八拳・狐拳などと称される「鉦や・鉄砲・狐」の変化した,柳拳・回り拳・深川拳があり,「蝦蟇・蛇・百足」または「蛙・蛇・蛞蝓」の虫拳や「和藤内・母親・虎」の虎拳,さらには三国拳,地獄拳,豆拳などもあります(文献3)。
(3)指切りの由来
指切りは約束を守らせる風習で,違えれば「指切拳万」や「針千本飲ます」のように拳骨で一万回殴る,縫い針千本飲ませる,と言って厳守させるわけです。
指切りは,元来遊女が客に心中立てとして小指の第1関節を切って渡したことに由来すると言われています。博徒集団での忠誠や謝罪を表す指詰めもこの風習に由来するとされています。なお,血判状での拇印も約束や契約の成立を意味しており,契りや小切手などの金融用語にも同様の表現がみられます。
指切りの習慣は,中国で成立し,日本や朝鮮などアジア各地に伝播したとされていますが,法に違反した者が指切りをして責任を取る事例は,既に中世社会にみられました。パプア・ニューギニアでは,親族に死者が出るごとに女性が指を切る風習がみられました。
子どもの遊びの「指切りげんまん」も,じゃんけんと同様に,かつての大人の習慣を子どもが真似したものと考えられます。米国では,指切りをpinky swearと言うらしいですが,伝播か独立発生したものかは不明です。

【文献】


1) ゼップ・リンハルト:拳の文化史. 角川書店, 1998.
2) かこさとし:子どもと遊び. 大月書店, 1975.
3) 飯島吉晴:日本医事新報. 2004;4208:102-3.

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