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抗インフルエンザ薬ファビピラビルの適応

No.4754 (2015年06月06日発行) P.59

小林 治 (杏林大学保健学部兼担教授)

登録日: 2015-06-06

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

RNAポリメラーゼ阻害薬のアビガン(ファビピラビル)は副作用に催奇形性があるとのことで,妊娠中の女性などには処方できませんが,高齢者やノロウイルスへの適応はどうか,ご教示下さい。 (福岡県 T)

【A】

ファビピラビルは日本で開発された新規抗インフルエンザ薬です。その作用は,現在抗インフルエンザ薬として用いられているノイラミニダーゼ阻害薬(neuraminidase inhibitors:NAI)とまったく異なり,ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害するものですので,NAI耐性インフルエンザウイルスやNAIの臨床的有効性が不十分な新型インフルエンザウイルスに対する有効性が期待できます(文献1,2)。さらに耐性ウイルスが発現しづらいこと,実験的にファビピラビル耐性インフルエンザウイルスを作成しても継代培養できないことが判明しており,有効性の持続が期待できる抗インフルエンザ薬と言えます。
ただし,本薬剤の開発過程でラットとイヌに精巣の組織学的変化が,マウスでは精子異常が認められています。いずれも休薬による可逆性が認められていますが,添付文書にはこれらの詳細な安全性検証の結果を受けて,妊婦・産婦への投与はしないこと(禁忌),授乳中の婦人に投与する場合は授乳を中止することなどが警告されています。また,高齢者においては生理機能が低下していることが多いので,患者の状態を観察しながら投与することが記載されています。加えて,本薬剤はほかの抗インフルエンザ薬が無効または効果不十分な新型または再興型インフルエンザが発生し,当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ,患者への投与が検討される医薬品となっていることにご留意下さい。
さて,ファビピラビルは開発段階からインフルエンザウイルス以外への活性が認められ,抗ウイルス薬として異例の多種のウイルス感染症への汎用性が期待された薬剤です。西アフリカ地域で流行しているエボラ出血熱のウイルス以外にも,アレナウイルス,ウエストナイルウイルス,黄熱ウイルス,西部ウマ脳炎ウイルスなどの熱帯熱のほか,ご質問にあるノロウイルス(文献3) のような身近なウイルスにも活性が報告されています。しかし,基礎研究で抗ウイルス活性が認められたからといって,必ずしも臨床的な有効性が得られるとは限らず,仮に有効性が確認されても,あらかじめほかのウイルス感染症で確認された用量で有効性が得られるかどうかの確証が得られない点が抗ウイルス薬開発の難しいところです。
さらに,薬剤開発における安全性の検証が近年日本を中心に非常に高まっていること,健康保険法第72条には保険医は厚生労働省令で定められた範疇での健康保険の診療を行うことが定められていることに鑑みると,医師の裁量権を安易に行使し医薬品の適応外使用を行うことは慎まなければなりません。
ファビピラビルは,わが国から久しぶりに発信されたinnovative drugです。ただし,医薬品は諸刃の剣でもあるので,臨床医の先生方には是非とも大切にお

【文献】


1) Furuta Y, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2002;46(4):977-81.
2) Sleeman K, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(6):2517-24.
3) Rocha-Pereira J, et al:Biochem Biophys Res Commun. 2012;424(4):777-80.

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