【Q】
小児の心血管インターベンション領域におけるデバイスラグについてご教示下さい。可能であれば,欧米では使用可能であるものの日本では使用できないデバイスの実例を含めて,現状をご解説下さい。 (大分県 I)
【A】
肺動脈弁狭窄症に対する経皮的バルーン弁形成術の報告以後,経皮的弁・血管形成術は先天性心疾患に対する標準的治療法の1つとなりました。また,動脈管開存症に対するコイル閉鎖術の導入後,デバイスを用いた欠損孔閉鎖術が行われるようになりました。
[1]経皮的弁・血管形成術に用いられるデバイス
(1)バルーンカテーテル
多くのバルーンカテーテルが流通していますが,先天性心疾患のためにデザインされたものは少なく,病態や体格に応じて選択します。狭窄を拡大するためのバルーンという構造は共通していますが,薬事法上の承認は,経皮的冠動脈形成用,弁拡張用,末梢血管用などにわけられます。経皮的冠動脈形成用や弁拡張用バルーンを乳幼児の血管狭窄に使用した場合,適応外使用と判定されることがあります。
(2)ステント
小児でも,成人の血管径まで拡大できるステントを留置できる大血管狭窄では,ステント留置術が第一選択のカテーテル治療とされます(文献1)。欧米では数多くのバルーン拡張型ステントが先天性心疾患に伴う大血管狭窄に対して用いられていますが,わが国ではいまだに古典的なPALMAZTM ステントしか入手できません。また,大血管狭窄のカテーテル治療に伴う合併症(動脈瘤や破裂)に対する緊急避難用デバイスとして,カバードステントが必要とされていますが(文献1) ,先天性心疾患に使用できるものはありません。
[2]デバイスによる欠損孔閉鎖術
(1)心房中隔欠損
AMPLATZERTM Septal Occluder(ASO)による経皮的心房中隔欠損閉鎖術は,わが国でも標準的治療となっています(文献2)。欧米ではASO以外にも多くの閉鎖栓が流通していますが,わが国では入手できません。また卵円孔開存の閉鎖栓も薬事承認を得ていません。
(2)動脈管開存
コイルやAMPLATZERTM Duct Occluder(A
DO)による動脈管開存閉鎖術は,わが国でも標準的治療となっています(文献3)。欧米ではADOの改良型のADOⅡ,ADOⅡASなども用いられていますが,これらは入手できません。
(3)心室中隔欠損
筋性部心室中隔欠損を閉鎖するために使われるAMPLATZERTM Muscular VSD Occluderは,外科的閉鎖が困難な筋性部心室中隔欠損を適応として既に米国食品医薬品局の承認を得ています。また,種々の膜様部心室中隔欠損閉鎖用デバイスがCEマーク(EU加盟国の製品基準を満たすことを示す)を得ていますが,入手できません。
[3]経カテーテル的肺動脈弁留置術
海外では人工導管を用いた右室流出路再建術後の導管狭窄や肺動脈弁閉鎖不全に対し,MelodyR ValveやEdwards SAPIEN Valveによる経皮的肺動脈弁留置術が行われるようになっていますが(文献4) ,わが国へはまだ導入されていません。
○
海外で多くの実績があっても,新しいデバイスを国内に導入するときには,多くの場合,ランダム化された治験が求められます。
先天性心疾患では年齢,体格,病態などの多様性からランダム化自体が困難であること,新しいデバイスでは,国内で治験を行うために必要な物理化学的・生物学的特性に関する非臨床データ(わが国ではきわめて厳格なデータが求められます)が十分ではないことが多いこと,などの状況が小児期心疾患に対する新しいカテーテル治療デバイスの導入を困難にしていると考えられます。
【文献】
1) 富田 英, 他:日小児循環器会誌. 2012;28(Suppl 2):1-s40.
2) Masura J, et al:Cathet Cardiovasc Diagn. 1997;42(4):388-93.
3) Masura J, et al:J Am Coll Cardiol. 1998;31(4):878-82.
4) Zahn EM, et al:J Am Coll Cardiol. 2009;54(18):1722-9.