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抗精神病薬服用者の肥満

No.4767 (2015年09月05日発行) P.65

高柳陽一郎 (富山大学大学院医学薬学研究部 神経精神医学講座講師)

登録日: 2015-09-05

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

抗精神病薬の服用者で,本人は食欲不振を訴えているにもかかわらず急激に肥満になる例が多いように見受けられます。薬理学的理由はありますか。生活習慣性のものなのでしょうか。 (福島県 Y)

【A】

統合失調症に代表される精神病性障害の患者は,陰性症状(引きこもり,無為,興味・関心の低下など)のため身体活動性が健常者と比べ著しく低下したり,偏食がちとなることがあることから肥満のリスクが高いと考えられています。
さらに現在,統合失調症の薬物治療の主流となっている非定型(第2世代)抗精神病薬の使用が肥満を助長していることが考えられています。1980年代後半より使用が可能となった,非定型抗精神病薬〔リスペリドン,クロザピン,オランザピン,クエチアピン,アリピプラゾール,ジプラシドン(未発売)など〕は,定型抗精神病薬(ハロペリドール,フルフェナジンなど)で問題であったパーキンソン様副作用(振戦,筋強剛,ジストニアなど)や遅発性ジスキネジアの発症頻度が低い一方,体重増加,耐糖能異常,脂質異常など,代謝系の副作用を引き起こしうることが多くの研究で明らかにされています。
特に体重増加は,オランザピンとクロザピン内服において,顕著な副作用です。代表的なメタ解析(文献1)によると,オランザピン,クロザピンの10週間の内服による平均体重増加はそれぞれ4.5kg,4.2kgでした。また,そのほか頻用される非定型抗精神病薬であるリスペリドンでも平均で2kgの体重増加がありました。さらに,最近のメタ解析(文献2)でも,オランザピン,クロザピンを筆頭に,ほとんどの非定型抗精神病薬で体重増加との関連が認められています。
このように,非定型抗精神病薬が統合失調症患者において体重増加,代謝に影響を及ぼしていることは間違いないものと考えられます。
非定型抗精神病薬が体重増加を引き起こすメカニズムは完全に解明されたわけではありませんが,セロトニン,ヒスタミン,ドパミン,アドレナリン,ムスカリン各受容体遮断作用を介しているものと考えられています(文献3)。また,同一の非定型抗精神病薬を服用しても体重増加が必ずしも生じるわけではないことから,遺伝的要因も影響するものと考えられています(文献3)。

【文献】


1) Allison DB, et al:Am J Psychiatry. 1999;156(11):1686-96.
2) Leucht S, et al:Lancet. 2013;382(9896):951-62.
3) Roerig JL, et al:CNS Drugs. 2011;25(12):1035-59.

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