【Q】
医師免許を有する者は,医師会に加入しなくとも医師としての診療が可能です。一方,弁護士は弁護士会に所属しなければ弁護士活動ができないというのは事実ですか。国家資格を有するのにもかかわらず,会に所属しないとフリーランスでの仕事もできないというのは,部外者から見ると違和感を覚えますが,この理由をご教示下さい。 (京都府 S)
【A】
お尋ねの通り,弁護士は弁護士会に所属しなければ弁護士活動ができません。
医師となるには,医師国家試験に合格し厚生労働大臣の免許を受ける必要があります〔免許制〕(医師法第2条)。一方,弁護士となるには,司法試験に合格し司法修習を終えるなどして弁護士となる資格を取得します。そしてその上で,入会を希望する単位弁護士会(全国に52会あります。各府県に1つですが,北海道は広域のため地域をわけ4つ,東京は過去に分裂したため例外的に3つあります)を経て,日本弁護士連合会(日弁連)に備えた弁護士名簿に登録される必要があります〔登録制〕(弁護士法第8,9条)。
つまり,弁護士となる資格を有していても,弁護士会に加入し日弁連に登録しなければ「弁護士」にはなれませんので,当然に弁護士活動もできません。このように,弁護士会が強制加入団体とされている点で,任意加入団体の医師会とは性格が異なります。
では,なぜ弁護士会に強制加入制が認められているのでしょうか。それには「弁護士自治」と密接な関わりがあります。
「弁護士自治」とは,一般に,弁護士の資格審査や登録,懲戒を弁護士の自律に任せ,弁護士の職務活動や規律を,裁判所や検察庁あるいは行政官庁等の監督に服せしめないことを言います(文献1)。
医師の場合,監督官庁は厚生労働大臣であり,厚生労働大臣が医師に対する懲戒権を有していますが(医師法第7条第1,2項),弁護士には監督官庁が存在せず,弁護士に対する指導,連絡および監督はすべて弁護士会の自治に任せられています。
弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現する使命を負っており(弁護士法第1条),弁護士がその使命を全うするには,時に国家権力と対立して戦わなければなりません。もし弁護士が行政官庁の監督下に置かれたら,懲戒権の行使等を恐れ,使命を全うできなくなってしまいます。
戦前の明治憲法下における旧弁護士法時代には,懲戒権を有する司法大臣・控訴院検事長・検事正の監督下に置かれ,人権擁護活動を著しく制限されていました。その苦い経験から,日本国憲法下においては,弁護士が民主主義社会を支える基盤となり,基本的人権を擁護し,社会正義を実現するという使命を全うさせるために,その制度的保障として「弁護士自治」が認められているのです。
「弁護士自治」を獲得した以上,弁護士会・日弁連が自らを律する責任は重く,「弁護士自治」の適正な運用を確保するために,すべての弁護士を単位弁護士会・日弁連の監督下に置けるよう強制加入制をとる必要があると考えられているのです。
【文献】
1) 日本弁護士連合会弁護士倫理委員会, 編:解説『弁護士職務基本規程』 第2版. 日本弁護士連合会, 2012, p5.