【Q】
歯科治療では,銀歯にするのは良くないという流れになっているように思いますが,実際のところはどうなのでしょうか。銀色より白色のほうがよいという審美性,あるいは金属の毒性,アレルギー性によるものですか。保険治療的な観点も含めてご解説下さい。 (兵庫県 K)
【A】
かつては,歯の治療で銀歯や金歯がおしゃれという時代がありました。しかし最近は,特に前歯(前から3番目の歯まで)に関しては,銀歯や金歯が使われることはほとんどなくなりました。それは,もちろん銀歯より自然な白い歯のほうがよいという審美性を選ぶ人が多いからです。
保険治療では金属(金銀パラジウム合金など)にレジンを張り付けた硬質レジン前装冠などが,保険外治療では金属に陶材を焼き付けたメタルボンド冠やまったく金属を使わないオールセラミック冠などが使用されます。奥歯(前から4番目の歯より後ろの歯)に関しては,見えにくい,また前歯より耐久性が求められるという理由で,保険治療では銀歯(金銀パラジウム合金など)が使用されます。小臼歯(4番目と5番目の歯)に限って,白色の硬質レジンジャケット冠や,最近では保険治療でもセラミックとレジンのハイブリッドであるCAD/
CAM冠が使用できるようになりましたが,対合歯との当たりが強い場合など,かみ合わせの状態によっては耐久性に問題があることから,選択されません。また,奥歯では保険外治療で白色の冠だけでなく,金合金や白金加金などを使用したゴールド冠も使用されています。
奥歯に銀歯が使用されているのは,普通に口をあけても奥歯は見えにくいので,審美的に問題がなく,耐久性にも優れているからですが,金属は錆びて溶出することがあり,金属アレルギーを起こす例が増えています(文献1)。また,かつて歯の修復によく使用されたアマルガムは水銀の合金で,その毒性のために現在ではほとんど使用されず,替わって合成樹脂のコンポジットレジンや金銀パラジウム合金が使用されています。
一方,金は溶かした後の収縮が小さく,よく伸びて歯に密着し軟らかいので,かめばかむほどかみ合わせの歯に合った形になり,溶け出すことも少ない金属です。したがって,金は歯を修復するのに優れた材料となっています。それで今でも奥歯には金がよく使用されていますが,高価なので保険外治療となります。
被せ物ではなく詰め物ですが,コンポジットレジン充填は保険治療でありながら,白いので審美的にも優れた修復です。歯型をとって模型上で製作し,セメント合着するインレー修復と異なり,口の中で直接詰めて固めるので1回の来院で終了し,患者さんの負担も少なくてすみます。インレーはセメントで歯と接着させるのに対し,コンポジットレジンは直接歯と接着するので外れることが少ないのも利点です。そして何よりも優れている点は,むし歯(う蝕)だけ削って詰めるので健康な歯質を削らずに治療できるということです。しかし,口の中で直接詰めて形をつくるので,高い審美性を求めるのであれば,高度な技術を持った歯科医師を選択することが大切になります。
1) 樋口繁仁, 他:Quintessence. 2005;24(11):173-80.