株式会社日本医事新報社 株式会社日本医事新報社

CLOSE

大学内で教員に与えられた研究スペースの使用権利とは?【立ち退きを求められたときに抵抗できるか】

No.4807 (2016年06月11日発行) P.64

佐藤敬二 (立命館大学法学部教授)

登録日: 2016-06-11

最終更新日: 2016-10-21

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【Q】

大学内で教員が占有する研究スペースについて。貸しラボとか寄附講座であると,お金と引き換えに借りる賃貸のような契約が想定できますが,定員内の教員の場合は,そこを占有するというのはどのような法律的な権利に基づくものでしょうか。
場所の整理で,立ち退きを求められることもありますが,そのような場合,抵抗するというのは法律上はどういう位置づけなのでしょうか。強制的に排除することは学長なり所属長の命令でできるものですか。 (兵庫県 K)

【A】

研究スペースを使用できる根拠は,教員と法人との間で締結されている労働契約です。したがって,使用のあり方については,基本的には労働契約で約定されている内容に従うことになります。実際には,契約書の中で研究スペースについて書き込まれていることは少ないと思います。しかし,契約は合意によって成立しますので,書面になっていなくとも合意があればそれが契約内容です。そこで,労働契約でいかなる合意がなされているのかを解釈していくことになります。
まず,研究スペースが付与されていないとは解釈されません。大学設置基準第36条2項は,「研究室は,専任の教員に対しては必ず備えるものとする」と規定しています。大学設置基準とは,文部科学省が大学設置に必要な最低基準として定めた審査基準で,この規定から直接,教員に対する研究スペースの付与義務が発生するわけではありませんが,大学設置基準に則って大学が設置されていることを前提として労働契約を締結しているのですから,研究スペースの付与が契約内容となっていると解釈できます。裁判所も研究室貸与請求権を認めています。大学側が,研究室付与を便宜供与,あるいは使用貸借契約であるとして,大学の判断で使用停止できると主張したことがありますが,いずれも判決で退けられています。
ただし,特定の場所まで請求できる具体的権利ではなく,場所などについては,大学の研究・教育目的の実施方法や物理的制約などを総合的に考慮して,最終的には学長が決定する裁量権限を有していると裁判所は解釈しています。しかし,他方で,教員が研究や教育を行うことは,労働契約上の義務であるとともに,権利であることも裁判所は認めています。したがって,研究・教育の拠点である研究室の使用について,学長の裁量権限行使がまったくの自由というわけではありません。
判決で認められた例を挙げるならば,「現に使用されていない部屋が残されている以上,(中略)研究室のいずれかの貸与を請求する権利を有する」,あるいは「移転の必要性がないのに,恣意的な移転命令が発せられた場合,又は移転先が学問研究を行う上で特に不利益を与えるような場合等特段の事情がある場合には,その命令に従わないことにも,正当な理由によるものということができる」とされています。
研究スペースの利用条件は,各大学で定められている利用規則なりガイドラインの内容が,契約内容となっていると解釈されます。ただし,これは内容が合理的であり,それが教員に周知されていることが必要です。以上をふまえた上で,研究スペース移転の必要性あるいは利用方法の合理性が判断されていくことになります。それは個々の研究内容によって異なった判断となるでしょうが,大学は,教員の労働契約上の権利でもある研究を妨げないような場所などの決定が必要だと言えるでしょう。

関連記事・論文

もっと見る

関連書籍

関連物件情報

もっと見る

page top