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アルツハイマー病に対するワクチンの現況

No.4704 (2014年06月21日発行) P.63

田平 武 (順天堂大学大学院認知症診断・予防・治療学講座客員教授)

登録日: 2014-06-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

以前,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)のワクチンが開発され,発売間近とも聞きましたが,その後の状況について,順天堂大学大学院・田平 武先生に。
【質問者】
渡辺洋一郎:渡辺クリニック

【A】

ADに対するアミロイドワクチンの治験が行われましたが,副作用としての脳炎が起こったため,中止となりました。そこで,副作用のないワクチンをつくれば問題が解決するのではないかと考えられ,私たちが開発している経口ワクチンに大きな期待が寄せられました。しかしその後,問題はそれほど単純ではないことがわかりました。
まず,アミロイドワクチンで脳の老人斑が消えることはわかったのですが,臨床的有効性は認められなかったのです。脳炎を起こさないアミロイド抗体の治験も脳のアミロイド蓄積を減少させることには成功しましたが,有効性は認められませんでした。
これらのことから老人斑アミロイドを除去してもあまり意味がないということがわかりました。どうやら毒性が強いオリゴマーを除去しないとだめなのではないか,あるいは脳で起こっている炎症を抑えないとだめなのではないか,タウの病態カスケードにスイッチが入っており,タウの病態を止めないとだめなのではないか,等々議論されています。ただ,一部の抗体は軽症者に限ってみれば若干の有効性が認められ,アミロイドを標的とする治療が間違っているというわけではないようです。
また,バイオマーカーの研究が進み,ADでは認知症を発症する20年も前から脳にアミロイドがたまりはじめ,10年遅れてタウがたまりはじめるので,認知症を発症してからアミロイドやタウを除去しても,もはや遅いのではないかと考えられるようになりました。
そこで,脳にアミロイドの病態がスタートしているがまだ認知症を発症していない段階のものをpreclinical AD (PCAD)と診断し,そこで治療をすれば認知症の発症が遅れるのではないかと考えられるようになりました。
欧米では抗体によるPCADの治験が既に始まっており,3~4年後に出る結果が待たれます。これがうまくいけば50歳代,60歳代で脳のアミロイドイメージングを行い,陽性であれば治療を行うという時代がやってくると思われます。そうなると私たちの経口ワクチンは再び脚光を浴びると思っています。
糖尿病が腎症や網膜症を起こしていなくても血糖値で糖尿病と診断され治療されているように,ADも,認知症を発症していなくてもバイオマーカーで診断し,治療を開始することになるかもしれません。そのためにはPCADの治療を是とする社会的合意が必要であると思われます。

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