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若年女性のてんかんにおける薬剤選択

No.4723 (2014年11月01日発行) P.54

辻 貞俊 (国際医療福祉大学福岡保健医療学部学部長医学検査学科長)

登録日: 2014-11-01

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

若い女性に対し抗てんかん薬のバルプロ酸を投与することは,催奇形性や胎児のIQへの影響などから,避けるよう強く勧められています。若年女性の全般発作のてんかんで,次のような場合,どのような薬剤を投与されますか。国際医療福祉大学・辻 貞俊先生のご回答を。
(1) バルプロ酸で治療開始し,経過良好で,減量・中止後,発作はないものの,脳波異常(全般性の鋭波)が出現した場合
(2) バルプロ酸徐放薬400~600mg/日で経過良好の場合
(3) てんかんの家族歴がある場合
(4) フェノバルビタールで,眠気のため治療量の内服が困難な場合
【質問者】
清水夏繪:帝京大学名誉教授

【A】

ご質問は,全般発作を呈する若い女性てんかん患者での抗てんかん薬の選択についてです。
「てんかん治療ガイドライン2010」では,新規発症全般発作に対する抗てんかん薬の選択として,(1)バルプロ酸が第一選択薬として推奨され,第二選択薬として,欠神発作にエトスクシミド,ミオクロニー発作にクロナゼパム,強直間代発作にフェノバルビタールが推奨され,クロバザム,フェニトインも候補となりうる,(2)症候性全般てんかんでは,クロナゼパム,ゾニサミドなども考慮する,(3)新規抗てんかん薬(クロバザム,ガバペンチン,トピラマート,ラモトリギン,レベチラセタム)の中では,強直間代発作にはバルプロ酸についでラモトリギン,トピラマート,レベチラセタムが推奨され,欠神発作には既存薬についでラモトリギン,ミオクロニー発作にはバルプロ酸についでレベチラセタムが推奨される,(4)カルバマゼピン,ガバペンチンでミオクロニー発作や欠神発作が増悪するため,特発性全般てんかんには使用しない,とされています。
「てんかん治療ガイドライン2010」での妊娠可能女性の抗てんかん薬の選択については,可能であれば単剤にし,バルプロ酸を避けることが望ましいとされています。バルプロ酸投与を避けるように勧められている理由は,妊娠中の服用により出生児の中枢神経系をはじめとする先天性奇形と知的機能低下をきたすリスクがあるからです。米国NEAD study(Neurodevelopmental Effects of Antiepileptic Drugs study,代表者:Kimford J. Me--ador教授)をはじめとする妊娠レジストリー研究では,他の抗てんかん薬内服と比較してバルプロ酸1000mg以上の服用で出生児の催奇形性や知的機能低下の発現率が有意に高いことに加えて,用量依存性も知られています。現在のところ,これ以下の内服であれば安全と言える投与量は,文献的にもないのが現状です。
[1]バルプロ酸減量・中止後の脳波異常に対して
バルプロ酸で治療開始し,経過良好による減量・中止後も発作はないものの,脳波異常(全般性鋭波)が出現した場合は,発作の再発率が高くなりますので,通常は抗てんかん薬治療の再開が勧められます。なお,てんかんの分類によっても内服中止後の再発率は異なり,たとえば,若年ミオクロニーてんかんの場合は80%再発すると言われています。若い女性のてんかん患者の場合,バルプロ酸以外に変更するのであれば,妊娠レジストリー研究でも催奇形性の低いことが示されているラモトリギン,レベチラセタムが有力な選択薬になります。しかし,これらの新規抗てんかん薬治療も内服が長期間となるため,バルプロ酸と比べて治療費が高価になるという別の問題も,若い患者にはあります。
[2]バルプロ酸徐放薬の継続可否
バルプロ酸徐放薬400~600mg/日での治療で経過良好な場合は,比較的低用量であり,若い女性患者でも他剤への変更はしないという選択も当然あります。バルプロ酸血中濃度が70μg/mL以下であれば催奇形性のリスクはあまり高くないという見解もありますので,血中濃度(治療域の血中濃度50~100μg/mL)も参考にされるとよいと思います。
トピラマートの奇形発現率はバルプロ酸(10.7~11.1%)とほぼ同様であるとも言われ,フェニトインは7.4~9.1%,フェノバルビタールは4.9~5.1%と言われており,これらの薬剤の若い女性への投与には催奇形性の注意が必要となります。わが国で先行したゾニサミド,クロバザムに関する催奇形性のデータはありません。
バルプロ酸など一部の抗てんかん薬は血中葉酸濃度を低下させるので,神経管閉鎖障害(1~2%の頻度)の発症予防に葉酸(0.4mg/日)をあらかじめ補充することが推奨されています。
[3]てんかんの家族歴を有する場合
てんかんの家族歴がある場合も,発作の再発率は高くなりますので,通常は抗てんかん薬治療の再開が勧められます。
[4]フェノバルビタール内服が困難な場合
フェノバルビタールによる眠気の副作用のため治療量の内服が困難な場合は,当然,他の薬剤への変更を行います。ラモトリギン,レベチラセタム,トピラマート,ゾニサミド,クロバザム,クロナゼパム,フェニトインなどが候補となりえます。

患者・家族と主治医がてんかん再発の可能性やバルプロ酸の催奇形性などに関してよく話し合い,バルプロ酸を再開するか,新規薬剤に変更するかを決めることが重要です。

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