急性心不全,慢性心不全の急性増悪時の管理として,vitalを安定させるには膠質浸透圧のコントロールが非常に重要である。心不全患者の膠質浸透圧管理において,低アルブミン血症や貧血であれば血液製剤を補充すればよいのであるが,Na利尿薬を使用した上での低Na血症への有効な対応策はなく,膠質浸透圧の維持に困難を生じていた。
2010年12月からわが国で発売されたトルバプタン(サムスカ)はまったく新しい機序の利尿薬である。バソプレシンV2受容体に結合し水チャネルであるアクアポリン2の発現を抑え水の再吸収を抑制する,簡単に言えば水のみを排出する利尿薬である。トルバプタンのユニークな点は,Na利尿薬と違いNaやKを排出しない薬剤であることである。その結果,Na利尿薬の過剰投与では低血圧を生じることが多かったが,トルバプタン使用では電解質を安定させることで血圧を維持したまま第三スペースの水のみを排出することが可能になった(文献1)。入退院を繰り返すような重症心不全患者の治療において画期的な治療薬と考えられる。
ただ,人工的に尿崩症を起こす薬剤であり,血清Na濃度の上昇の可能性,肝機能への影響が報告されている。それらに十分に配慮しながらの使用であれば,安全に使用できる薬剤であると思われる。現在,多くの医師が臨床データを蓄積し,その効用について検討しているところである。
1) Matsuzaki M, et al:Cardiovasc Drugs Ther. 2011;25 Suppl 1:S33-45.