従来からの外傷に対する手術は,すべての損傷に対する根本治療を受傷後早期に終了しようとするもので,一般の予定手術と同様のコンセプトである。しかし,輸液療法に反応しない循環不全,低体温,凝固異常を伴う重症外傷に対して定型的手術を行うことにより,“すべての損傷の修復は行えたが,救命することはできなかった”ということを多くの外傷外科医は経験してきた。
腹部外傷外科手術の基本的要素は,(1)control of bleeding,(2)identification of injury,(3)control of contamination,(4)reconstruction,であり,定型的手術と同じである。しかし,大量出血を伴う外傷に対する手術は,全身状態を改善してから行うのではなく,criticalな状態から引き上げるために,限られた時間で遂行する。このような外傷に対する外科的アプローチがダメージコントロールサージェリー(DCS)であり,(1)出血と汚染の“コントロール”のための初回手術,(2)生理学的異常補正のための集中治療,(3)根本治療のための予定再手術,の3相により構成される。
出血制御のための外科タオルによる圧迫止血(パッキング)では腹腔内にタオルを残し,消化管損傷に対しては汚染防止のみを目的に損傷部を閉鎖し(再建は行わない),開腹創は開放のままICUにて治療する。そして,再手術にて根本治療を行う。出血と汚染の確実な制御のみを目的とするDCSの考え方は,現在の重症外傷治療の中心的課題である。逃げの治療ではなく,積極的に選択する,究極の外科的・集学的治療アプローチである。
▼Kushimoto S, et al:J Nippon Med Sch. 2009;76 (6):280-90.