一般的に,血清ビリルビン値は肝機能障害や胆管障害などの評価に使われる。一方,最近の研究で体質的に血清ビリルビン値高値を示すGilbert syndromeの患者には心疾患が少ないことが報告されている。さらに,血清ビリルビン値が正常範囲内の人を対象としたその後の研究で,血清ビリルビン値と心・腎疾患などとの関係を評価した報告が複数なされている。
筆者らも,横断研究では総ビリルビン低値と糖尿病性腎症や冠動脈石灰化との関係について,後ろ向きコホート研究では糖尿病性腎症の進行や慢性腎臓病(CKD)の発症について報告している。また,同様の報告はほかのグループからもなされており,日本人を対象としたものや,海外からの報告など多数ある。さらに,2012年に英国から心血管疾患や肝疾患がない13万人を対象とした研究報告がなされ,男女ともに総ビリルビン低値が,心血管疾患(総ビリルビン0.6mg/dLの人と比較し0.3mg/dLの人は18%リスク増)・心筋梗塞(同34%増)・全死亡(同33%増)の独立したリスク因子であることが報告されている(文献1)。
これらの機序として,ビリルビンが内因性の抗酸化物質であること,特に血管内膜に脂質を集積させるoxidized LDL-cholesterolや,動脈硬化の形成に影響を与えるフリーラジカルや,炎症反応を抑制する働きをビリルビンが担っていることが考えられている。今後は,動脈硬化性疾患のリスク評価にも,血清ビリルビン値が有用と考えられる。
1) Horsfall LJ, et al:Circulation. 2012;126(22): 2556-64.