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うつ病の生物学的指標

No.4752 (2015年05月23日発行) P.49

吉村玲児 (産業医科大学精神医学教授)

登録日: 2015-05-23

最終更新日: 2016-10-26

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脳由来神経栄養因子(BDNF)は脳内に最も豊富に存在する神経栄養因子で,神経可塑性と深く関係している。近年では,うつ病の病態との関連で注目を集めている。BDNFは脳内のミクログリアで主に産生され,産生されたBDNFは血液脳関門を通過できる。また,末梢ではBDNFは血管内皮細胞などでの産生が多く,血小板中に貯蔵される。
うつ病の生物学的指標は,筆者らの研究も含めた幾つかのメタ解析結果によれば,うつ病患者では健常者と比較して有意に血中(血清・血漿)BDNFレベルが低下していた。筆者らの研究では,うつ病で低下している血中BDNFは抗うつ薬,経頭蓋磁気刺激療法,修正型電気痙攣療法による,少なくとも8週間の治療で健常者レベルにまでの回復が明らかになった。そして,重症うつ病患者ほど血中BDNFが低値であった。一方,うつ病の重症度と血中BDNF濃度には関連がないとの報告もあり,結果の一致を見ていない。
心理的ストレスと血中BDNFレベルの関連について,筆者らはいずれの精神疾患や身体疾患にも罹患していない勤労者を対象に検討した。その結果,心理的ストレスの強い勤労者ほど,血中BD
NFが低値であった。すなわち,血中BDNF測定がメンタルヘルスの一次予防にも寄与できる可能性がある。
以上から,血中BDNF濃度は,うつ病のstate markerになる可能性がある。さらに,血中BDNFが精神的ストレスを反映している可能性もある。しかし,血中BDNFは運動,喫煙,BMIなどの影響を受けることに注意が必要である。

【参考】

▼ 中村 純, 編:精神疾患のバイオマーカー. 星和書店, 2015.

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