マイクロサージャリーによる皮弁移植は,今日の頭頸部癌再建における第一選択であり,顎骨切除を伴う症例では,軟部組織に加え血管柄付き骨移植も行われる。このような患者では時に広範な歯槽,歯牙の欠損を生じ,咬合,咀嚼機能獲得には歯科補綴の技術が不可欠となる。
義歯が術後のQOLに大きな役割を果たすが,皮弁の介在や残存歯牙の不足などにより安定性を得ることが難しい場合があり,大きな課題となっている。このような中,2012年より歯科インプラント(人工歯根)治療の保険適用が図られた。対象疾患や施行施設に制限があるものの,義歯安定への有用な手段として,頭頸部再建例への貢献が期待される。
人工歯根の歴史は古く,古代ローマやマヤ文明時代の人顎骨から鉄や貝製の埋入物が発見されている(文献1)。近代では1900年代前半を臨床応用の端緒とし,機器や術式の改善に伴い,最近ではおおむね90%以上の10年残存率が報告(文献2)されている。
再建顎に用いる場合,埋入部の骨や歯肉の状況(移植骨や皮弁により被覆された部分への埋入)や年齢層(基礎疾患を有する高齢者が多い)に問題を有するが,少なくとも治療選択肢の拡大につながる朗報と言える。今後の治療成績についての検討,進展が待たれるところである。
1) 畑 好昭:明倫歯保健技工誌. 2008;11(1):3-8.
2) 鶴巻 浩:日口腔インプラント会誌. 2009;22(3):330-7.