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高齢者の意思確認ができない場合のワクチン定期接種について考えられる問題点は?

【被害の救済や接種医の責任はどうか】

No.4810 (2016年07月02日発行) P.62

谷 直樹 (谷直樹法律事務所 弁護士)

登録日: 2016-07-02

最終更新日: 2016-12-16

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【Q】

高齢者のワクチン定期接種(インフルエンザと肺炎球菌)に際し,本人の意思確認がなされなかった場合は「任意接種」として取り扱うとされています。認知症患者に限らず,高齢者への接種の場合,その意思確認作業はしばしば困難で,現場では明確な意思確認ができなくとも診察後に接種することが多いのではないでしょうか。
そこで以下についてお尋ねいたします。
(1) 高齢者のワクチン定期接種による副反応被害の救済措置はどのようになっていますか。
(2) 明確な意思確認ができない状況で(認知症のために接種に伴うトラブル発生を理解できていないなど)接種が実施され,不幸にも重篤な副反応が発生した場合は定期接種としての救済措置となるのでしょうか。あるいは任意接種としての扱いになるのでしょうか。
(3) 接種医の責任はどのように考えればよいのでしょうか。 (福岡県 T)

【A】

(1)高齢者のワクチン定期接種による副反応被害
高齢者のワクチン定期接種による副反応被害は,予防接種法の定める手続き〔市町村の予防接種健康被害調査委員会の検討と厚生労働省の疾病・障害認定審査会(感染症・予防接種審査分科会)の審議〕によって認定されます。認定された場合は,医療費,医療手当,障害年金,遺族年金,遺族一時金または葬祭料が支給されます。
ただし,その給付金額は,法律上の義務のある予防接種と異なり,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法に基づく医薬品副作用被害救済制度に準じます。つまり,給付金額は,任意接種と同じです。
(2)対象者の意思確認がない場合
予防接種法に基づく高齢者のインフルエンザと肺炎球菌の予防接種は,対象者が接種を希望する場合にのみ接種を行うこととされており,対象者の意思確認がない場合は,予防接種法に基づく接種はできません。したがって,対象者の意思確認がない場合の予防接種による副反応被害の救済は,予防接種法の定める手続きによることはできません。
この場合,医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構法に基づく医薬品副作用被害救済制度の手続きにより,その要件を満たせば,医療費,医療手当,障害年金,遺族年金,遺族一時金または葬祭料が支給されます。つまり,手続きと給付金額は,任意接種と同じです。
なお,単に対象者の意思確認がないというだけでは不適正使用となりませんが,臨床医学の実践における水準に照らしてその具体的事情において対象者に当該ワクチンを投与すべきではないと言える場合には,医薬品副作用被害救済制度の要件を満たさず,給付金は支給されません。そこで,医師の責任が問題になります。
(3)医師の責任
予防接種は緊急性のある治療ではなく予防であることから,同意のない医療が許されるとは考えがたく,対象者の接種希望意思を確認できない場合の接種を正当化することは困難です。後日,意思確認がないことが判明した場合,接種費用負担者から接種費用相当額の返還を請求されることも考えられますし,理論的には専断的医療として少額ではありますが対象者から賠償を求められることも考えられます。
さらに,医師が予診を十分に行わず接種すべきではないケースであることを認識せずに接種を行い,そのことにより対象者に副反応被害が生じた場合には,医師がその損害について民事の賠償責任を問われる場合がありえます。
対象者の意思確認が困難な場合は,家族またはかかりつけ医の協力により対象者の意思確認に努め,接種希望を確認できた場合に接種を行うようにして下さい。

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