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パニック障害の第一選択薬 【まず重症度・頻度・直近の発作を確認して適宜,SSRIにBZDを加える】

No.4814 (2016年07月30日発行) P.63

塩入俊樹 (岐阜大学大学院医学系研究科精神病理学分野 教授)

登録日: 2016-07-30

最終更新日: 2016-10-30

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【Q】

パニック障害ではベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZ)系抗不安薬(BZD)と選択的セロトニン再取込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)が治療に使われますが,どちらを最初に使うべきか悩むことがあります。前者には依存性,認知機能への悪影響などの問題点がありますが,比較的速効性です。一方,後者は依存性はありませんが,遅効性で,中止後症候群,性機能障害,activationあるいは躁転などの有害事象を起こします。パニック障害の第一選択薬の実際的な選び方について,最新の考え方を教えて頂けませんでしょうか。岐阜大学・塩入俊樹先生にお願いします。
【質問者】
井上 猛:東京医科大学精神医学分野主任教授

【A】

先生のご指摘通り,パニック症〔パニック障害:panic disorder(PD)〕に有効な薬物は,大別してSSRIと高力価のBZDの2つです。そして現時点での第一選択薬となると,やはり前者,つまりSSRIが国際的にも最もコンセンサスが得られています。この理由は,1980年代後半から欧米ではBZDの長期使用による耐性・依存が問題視されてきたからです。しかしご指摘の通り,SSRIは効果発現が遅く,投与初期のアクチベーション症候群や性機能障害,中止後症候群といった有害事象があり,といってBZDでは上記のデメリットがありますから,実臨床で悩まれている先生も多いはずです。
以下に,PDの第一選択薬の実際的な選び方も含めた私のPD治療を,特に薬物療法に特化してまとめてみます。
まず,初診患者のパニック発作(panic attack:PA)の重症度や頻度と最も直近の発作がいつ起こったか,についての情報を得ます。その結果,①PAの症状が強く,いつも救急車で搬送されるなど,周囲を巻き込んだ受診行動のある場合,あるいは②PAが1週間に1回以上(SSRIなどを増量していく間隔は,通常1週間なので)出現する場合,③認められたPAが初診時から1週間以内の場合,そして④全般性不安障害(generalized anxiety disorder:GAD)などの併存症があり,不安耐性が極端に低い場合,SSRI(原則的には,最も低用量の錠剤を1錠から開始)に加えて,高力価のBZDをPA出現時あるいはPAが起きそうだと患者が感じたときに服用して頂きます。
そして,上記4つ以外で初診時にBZDの処方をしなかったケースで,もし,次の受診日(初診日から1週間後が原則)までにPAが認められた場合,再診時に前述したようにBZDを用います。さらに,この時点で初診時に投与したSSRIが服用可能で,目立った副作用がなければ,SSRIを1週間ごと1錠ずつ,原則的には最高使用用量まで増量します。たとえば,PAが1~2週間と短期間に消失し,かつ広場恐怖症や抑うつ症状を認めないような社会機能障害があまり目立たない患者(つまり軽症の場合)は,SSRIの増量は必ずしも必要ないかもしれません。SSRIを増量しないメリットとデメリットを示し,実際に患者に決めて頂きます。
ちなみに,その後の一般的な経過としては,PAの頻度はそもそも波動的なので,薬物の効果なのか,自然経過なのか,本当はわからないのですが,PAは消失(あるいは軽減)する場合がほとんどです。ですから,この時点(1~3カ月後)でBZDの服用はなくなります。ただし,広場恐怖症を併発していると予期不安がなかなか消えず,PAはないものの行動範囲が病前と比べて縮小した状態が続きます。このような状態における治療は,薬物療法は継続しつつ,非薬物療法,つまり認知行動療法的なアプローチがより重要となってきます。

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