交通事故における受傷後死亡までの経過時間は,事故発生から最初の1時間以内にピークがあり,その後漸減していく。警察庁発表の「交通事故死亡者統計」では,事故発生後24時間以内の死亡者数に加え,30日以内の数も併せて発表されており,その数は前者より後者で2割ほど多い。
生存期間が短時間の症例では,事故と死亡との因果関係は明白であるが,時間経過のある遅延性死亡では,合併症や続発症が関与し因果関係が社会的に問題となる。筆者らの領域で法医解剖となった症例の検討では,交通事故後の遅延性死亡の死因は,大きく3群にわけられた1)。直接死因が肺炎や敗血症といった感染症と判断された群の受傷後死亡までの期間は平均106日と長期にわたり,平均63歳と高齢者に多く,大半は頭部外傷に続発していた。一方で,脂肪塞栓症候群に関しては,生存期間は平均3.7日と短く,身体外傷重症度(ISS)値は平均20と低く,骨折に合併していた。肺動脈血栓塞栓症は,生存期間は平均12日,ISS値は平均12と最も低く,致命的とは言えないような損傷に合併していた。
刑事事件に限らず,民事裁判や保険金支払いにおいて,事故と死亡との因果関係をめぐる紛争は絶えない。長い入院経過があり臨床で十分に診断がついている場合には解剖まで行う必要はないが,数日の経過の後に死亡し,死因に不明な点が残るような場合には,手間かもしれないが,警察に届け出をした上で,法医解剖に回す努力を臨床医に期待している。
【文献】
1) 大澤資樹, 他:日交通科会誌. 2016;15(2):20-7.
【解説】
大澤資樹 東海大学基盤診療学系法医学教授