ヒト免疫不全ウイルス(HIV)を含め臨床検査を行う場合は,患者の同意を得ることが原則である
妊婦や術前スクリーニングでは偽陽性が多いため,専門機関への紹介前に「感染している」と断定した言い方をするべきではない
HIV感染が専門機関への紹介前にほぼ確定している場合であっても,予後について断定的な言い方はしない
血液などによるHIV感染症患者からの曝露事故の紹介の際には,労働災害であることを認識し,曝露者にも説明しておく
医師は通常,鑑別診断を挙げつつ,病歴,身体所見と臨床検査や画像検査を使用して可能性の高い診断にたどり着き,必要であれば治療を行う。この一連の過程において可能な限り,その診断行為によって判明すると予測されることは事前に患者が知っておくことが望ましい。ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)抗原抗体検査,ウエスタンブロット法や核酸増幅検査を施行する前に患者の同意はもちろん必要である。この観点から考えると,これらの検査を受ける前の時点で,既に患者(患者に判断能力がない場合はkey person)が検査を受けることを認識していることが大半であろう。したがって,告知の前段階で少なくとも告知される側は検査を受けたことを認識していることが基本である。
また,HIV感染症を疑って検査する時点から,HIVを他人に感染させうる行為(静注薬物の回し打ち,性交渉,カミソリや歯磨きの共有など)は行わないように指導すべきである。被検者に無断でHIV検査を行うことは,以前から健康診断の一環として行われていたが,それを理由に解雇されたことに対する裁判で,私企業や都が敗訴している判例が複数ある1)2)。また,患者の同意が必要なことは,抗HIV療法が一般的でなかった時代ということもあるが,厚生省保健医療局エイズ結核感染症課(当時)から平成5(1993)年7月に,各都道府県・各政令指定都市衛生主管部(局)長に対して「HIV抗体検査実施にあたっては,人権保護の観点から,本人の同意を得て検査を行うこと。また,検査結果の取扱いについてはプライバシー保護に十分注意すること」(「健医感発第78号」)と通知が出されている。
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