【質問者】
仁王進太郎 東京都済生会中央病院精神科(心療科) 医長
双極性障害は躁とうつの気分変動を繰り返す精神疾患です。躁状態のときもうつ状態のときも,それぞれ仕事や学業を続けることが困難になり,家庭内生活さえ困難となって,入院加療を必要とすることも少なくありません。したがって,未治療の場合や治療が成功していない場合には,社会的に責任の重い立場に就いてリーダーの役割を果たすことは多くの場合,困難です。
このような一般論をまず大前提としてふまえた上での話ですが,「双極性障害という精神疾患を持っていること自体がリーダーとしての資質を増強することがある」という興味深い仮説を,米国の精神科医Nassir Ghaemiが提唱しています1)。
Ghaemiが提唱するInverse Law of Sanity(正常・異常反転の法則)という仮説によると,状況に大きな変化がなくルーチン・ワークを続けることが企業や国家にとってプラスになる時期には,精神的に健康であるほうがリーダーとして相応しいのです。そこまでは誰もが納得できるとして,状況の変化が激しくこれまでと同じやり方では組織がうまくいかなくなるような時期には,リーダーに向く資質に「反転」が生じ,むしろ精神疾患を持っていることがリーダーとしての成功につながる場合がある,としている点がこの仮説の斬新なところです。そして,このような「反転の法則」が成り立つ精神疾患は,双極性障害とうつ病である,とGhaemiは言うのです。
残り586文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する