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浅田宗伯(8)[連載小説「群星光芒」245]

No.4833 (2016年12月10日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2016-12-11

最終更新日: 2016-12-02

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  • 内務省衛生局では侃々諤々の議論が沸いた。

    「天皇が一介の町医者たる遠田澄庵の名をお知りになるはずがない。漢方を信奉する右大臣岩倉具視卿や徳大寺實則侍従長が御耳に入れたにちがいない」
    「しかし遠田の家伝薬を与えずして天皇の脚気が悪化しようものなら当局はいたずらに漢方を封じて名医の登用を阻んだと汚名を着せられよう」
    「それよりも遠田薬がはったりや擬い物だとしたら禍々しい事態になる」

    長與專齋衛生局長は部下たちに遠田薬の処方について薬店主などから聴取させたが、中身を知る者はなかった。
    脚気は国家的難病にもかかわらず西洋医書に記載がなくその対策に医療行政責任者として長與は苦慮していた。かつて東京医学校のお雇い教師シュルツェとウェルニッヒに「脚気の病態生理について教示願いたい」と訊ねたことがある。彼らは「脚気(beriberi)は東洋特有の急性水腫を発症する全身病であり体質説、中毒説、脚気菌説などが唱えられているが未だに原因も治療法も確立していない」と答えるのみだった。

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