頸部手術においては,特に甲状腺疾患の若年女性が対象になることが多く,整容性の需要により,1990年代後半より内視鏡手術が欧米やわが国において開始されていた。わが国では高度先進医療(後に先進医療)として早くから認められていたが,長年保険収載には至らなかった。近年,日本内分泌外科学会および日本甲状腺外科学会では,共同で内視鏡下甲状腺手術ワーキンググループを設立し,データ集積に努めてきた。
その結果,2016年4月より甲状腺,副甲状腺疾患の手術において,良性疾患のみに保険適用が認められた。対象となる疾患は,甲状腺では「良性腫瘍」と「バセドウ病」,副甲状腺では「腺腫」または「過形成」となっている。施設基準も示されているが,技術認定やそれに伴う施設認定などが今後の課題となりうる。
今回の改定では,甲状腺,副甲状腺のいずれも悪性腫瘍に対しては保険収載が見送られた。甲状腺の悪性腫瘍に対する内視鏡下手術は先進医療として少数施設で継続中であり,2年後の改定時での保険収載をめざしている。しかし,施行施設が少なく,データ集積数の不足や甲状腺の悪性腫瘍における予後の特殊性により,悪性腫瘍に対する手術としての安全性・有効性を証明する臨床指標の設定の困難さが憂慮される。
ロボット支援下甲状腺手術は韓国を中心に発展しており,わが国においても一部の施設において臨床研究が進められている。機器の改良により有用性もみられるが,大きな操作腔を要するため,侵襲性の問題やいくつかの欠点もみられ,コストも含め,わが国独自の機器の開発が望まれる。
【解説】
原 尚人 筑波大学乳腺・甲状腺・内分泌外科教授