アルコール依存症(現在の診断名は「アルコール使用障害」)は,自分では飲酒のコントロールができなくなる精神疾患である。身体的健康を害するだけではなく,大切な家族や仕事よりも飲酒を優先してしまう状況に至ってしまい,その結果,飲酒運転や暴力,虐待,失業など,様々な社会的問題につながるとされている。
アルコール依存症の治療を始めるには,本人の断酒の意志が大前提であり,大切な人間関係や社会的地位などを失う,いわゆる「底付き」体験が必要だと言われている。周囲の支援者は底付きを経験し断酒を決意するまで,時にはあえて距離を置くことも必要である。しかし,底付き体験へのプロセスの間に自殺に至ってしまうこともあるため,最近では,断酒ではなく減酒といった,本人が少しでも飲酒量を減らしたいと思ったときからアプローチを開始する支援方法が勧められている1)。
加えて,「特定保健指導」の場面でも,依存症該当者だけではなく,依存症には至っていない問題飲酒者に対する減酒支援といった早期介入2)も導入されている。
「底付き」を待つ支援から,医療機関を含む周囲の支援者が,早い段階から本人に介入していく「底上げ」の意識を持つことが,昨今の支援方法として必要になっている。
【文献】
1) 齋藤利和, 編:最新医学. 別冊83(精神9). 2014.
2) 厚生労働省:保健指導におけるアルコール使用障害スクリーニング(AUDIT)とその評価結果に基づく減酒支援(ブリーフインターベンション)の手引き. 2013.
【解説】
大類真嗣 福島県立医科大学公衆衛生学講師