重症大動脈弁狭窄症(AS)は,高齢化社会を背景に近年急速に増加してきており,放置すると命に関わる心臓弁膜症である
TAVIは従来,外科手術不適応または高リスク患者を対象としたカテーテル治療であったが,FDAは近年の良好な成績を受け,中等度リスクへの適応拡大を承認した
PARTNER 2 trialでは,中等度リスク患者におけるSAPIEN XT®とSAPIEN 3®の安全性と有効性が検証された
経大腿アプローチのTAVIは,外科手術と比べ有意に全死亡または重症脳卒中を減少させた。SAPIEN 3®を用いたTAVIでは術後1年死亡率,脳卒中発症率および中~重度大動脈弁逆流の主要複合エンドポイントで,外科手術よりも臨床的に有意な改善が実証された
高齢化社会を背景に,近年,大動脈弁狭窄症(aortic stenosis:AS)の患者が増加している。ASには大きく3つの原因がある。加齢変性,リウマチ性,先天的要素である。
リウマチ熱の後に長い年月を経て起こるリウマチ性ASは,以前よくみられたが,現在症例数は激減し,加齢変性によるASが大部分を占めている。加齢とともに弁の石灰化を中心とした変性が進行し,開放制限による狭窄が生じるというメカニズムである。
高齢化の進むわが国において,重症ASの平均年齢は78.4歳で,85歳以上では10%に認められたと報告されている1)。問題は,長期にわたり無症状のまま狭窄が進行し,症状が出現して初めてASが発見されるケースが多いことである。症状が出現した後の予後はきわめて悪く,一般的には,心不全が発現してからの生命予後は2年と言われている2)。
根治治療は,外科的な大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)がゴールドスタンダードであるが,年齢や合併症などを理由に外科手術の適応外となる患者が全体の約1/3を占める。
経カテーテル大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は,カテーテルを用いて大動脈弁を置換する治療で,従来の外科手術のような開胸を要さないことから,低侵襲な治療として注目され,良好な成績を収めている。2002年にフランスから始まり,現在に至るまでおよそ30万人の患者がこの治療を受けている。
わが国でも2013年に保険収載され,急速に治療件数が増えてきている。TAVIを受ける患者の平均年齢は84歳と言われ3),超高齢患者に行うケースも多く,大動脈弁の狭窄を解除すればすべて解決する問題ではない。肺や肝臓などに重大な疾患がある患者にも福音をもたらしたTAVIは,今後さらなる普及が期待される。
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