本稿では,この1年間の肝胆膵外科領域の重要な報告や今後の動向について概説する。
肝癌領域においては,わが国における肝癌診療に欠かせない存在となった「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン」が改訂され,2013年版(第3版)が発行された。また,肝癌に対する肝切除vs.ラジオ波焼灼という肝癌診療における重要な命題に対する多施設共同ランダム化比較試験の登録がまもなく完了する見込みである。一方で,肝胆膵領域癌は根治術後の再発率が高く,初回治療の重要性もさることながら,さらなる成績の向上には根治的再治療や有効な化学療法の併施が必要不可欠と思われる。
近年,術後補助療法における重要な報告が相次いだ。肝癌においてはソラフェニブによる補助療法は患者予後に寄与しないことが示された。膵癌ではS-1による補助療法がゲムシタビンに勝ることが示された。今後,さらに多数の術後補助化学療法に関するrandomized control study(RCT)の結果が発表される予定である。
肝移植領域では依然として脳死ドナーの絶対的な数不足が問題である。一方で生体肝移植の手技面や術後管理面では20年の歴史を経て,ほぼ確立された感がある。今後は移植後C型肝炎再燃に対する新しい抗ウイルス薬を用いた治療や,肝細胞癌に対する肝移植におけるミラノ基準の拡大などが重要な課題である。
「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン2013年版」が2013年10月に発行された。2005年に発行された初版以来,わが国の肝細胞癌の治療の現場で広く活用されるとともに,わが国の肝細胞癌に対するきめ細かいサーベイランスと外科的内科的治療をJapanese standardとして諸外国に向けて発信する旗艦とも言える本ガイドラインも,今回で第3版となった。
治療アルゴリズムに関しては,肝障害度,腫瘍数,腫瘍径の3因子で推奨治療法を決める基本構造は堅持された。肝障害度A/Bで単発の腫瘍に対しては肝切除が第一選択であると明記され,腫瘍径が3cm以内の場合に限りラジオ波焼灼療法(radiofrequency ablation:RFA)を第二選択として推奨した。肝障害度A/B,腫瘍数2~3個,腫瘍径3cm以内は肝切除と焼灼療法を優先順位なしで併記し,肝障害度A/B,腫瘍数2~3個,腫瘍径3cm超の場合は第一選択として肝切除,第二選択として塞栓療法とした。肝障害度A/B,腫瘍数4個以上の場合は第一選択として塞栓療法,第二選択として化学療法とした。この化学療法には分子標的薬(sorafenib)に加え,肝動注化学療法も含まれる。肝障害度Cの場合は,ミラノ基準(3個以内,3cm以内)を満たせば肝移植が推奨され,4個以上であれば緩和ケアが推奨される。
サーベイランス/診断アルゴリズムでは,1次検査として超音波検査,次にdynamic CT/MRIとする基本に変更はない。また,早期造影効果と後期washoutの併存を以て典型的肝細胞癌像として確定診断とする。早期造影効果を認め,後期washoutを有さない,腫瘍径が1cm超の腫瘍,早期造影効果を認めないが1.5cm超の腫瘍として描出される腫瘍に関しては,EOB-MRIなどのoption検査が推奨された。上記に当たらない場合は,腫瘍マーカーや超音波検査による3~4カ月ごとのサーベイランスが推奨される。
STORM試験(Sorafenib as Adjuvant Treatment in the Prevention of Hepatocellular Carcinoma)の結果が米国臨床腫瘍学会ASCO2014にて発表された1)。
本試験は肝細胞癌に対する根治的外科切除もしくは根治的RFA後にソラフェニブ800mg/日を術後補助療法として投与することにより1次評価項目を無再発生存率,2次評価項目を再発までの期間と全生存率とした,多施設共同ランダム化二重盲検試験である。
ソラフェニブ群556例(外科切除450例,RFA 106例)とplacebo群558例(外科切除450例,RFA 108例)が対象となった。わが国を含めAsia-Pacific地域よりそれぞれ330例,計660例(59%)が登録されている。無再発生存率はソラフェニブ群で中央値33.4カ月(27.6~44.0),placebo群で中央値33.8カ月(27.6-39.0)とまったく差を認めなかった。人種や年齢,などのサブグループ解析でも差を認めなかった。また再発までの期間や全生存率においても,まったく差を認めなかった。一方で,ソラフェニブ投与群で薬剤の副作用や投与量減量を有意差をもって高頻度に認めた。
以上より,本試験ではソラフェニブによる肝細胞癌根治術後補助療法は患者予後に寄与しないと結論した。この結果は,当教室の長谷川ら2)による,uracil-tegafurによる根治肝切除後補助療法が無再発生存に寄与しないばかりか,補助療法により予後を悪化させる可能性がある,との報告と相まって,肝細胞癌術後補助療法の困難さを再認識させる結果であった。
一方で沖田ら3)は,ペレチノイン内服によるC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)関連の肝細胞癌治療後再発の抑制効果をRCTにより報告しており,いわゆる抗癌剤とは別のアプローチで発癌抑制が期待できることも肝細胞癌の特徴と言える。ペレチノインについては現在第Ⅲ相比較試験が進行中であり,結果が待たれる。
当教室では2009年4月より「初発肝細胞癌に対する肝切除とラジオ波焼灼療法の有効性に関する多施設共同研究(SURF trial)」に登録中である。本試験は,肝機能が比較的良好で切除もラジオ波も施行可能な3cm3個以下の肝細胞癌に推奨されるより優れた治療はどちらなのか? あるいは差がないのか? という,肝癌治療における積年の命題に対するエビデンスの確立を目的としている。すなわち,Child-Pugh分類で7点以下,かつ3個以下3cm以下の条件を満たす初発古典的肝細胞癌に対し,肝切除とRFAの有効性をランダム化比較試験で検証することを目的としている。
目標症例数は1群300例,総数600例で,生存率と無再発生存率の両方を主要評価項目とし,それぞれで10%の差を検出しうる優越性試験としてデザインされたが,登録開始から4年後に中間評価が行われ1群150例,目標症例数300例に再設定された。2014年8月現在,272例が登録されている。
近い将来,本研究の結果により,肝細胞癌治療において,日本から高いレベルのエビデンスを発信できるものと思われる。
【文献】
1) Bruix J, et al:J Clin Oncol. 2014;32(suppl): Abstract 4006.
2) Hasegawa K, et al:Hepatology. 2006;44(4): 891-5.
3) Okita K, et al:J Gastroenterol. 2014.[Epub ahead of print]
(赤松延久)
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