気分安定薬は双極性障害に対する薬物療法において中心となる薬剤であり,抗躁効果,抗うつ効果,再発予防効果を持つ。
各薬剤の特徴を把握し,状態像に応じた薬剤選択を行い,投与初期の副作用の発現には十分注意する。
維持療法においても定期的なモニタリングを行い,身体状況の変化に応じて薬剤調整を行う。
気分安定薬とは,主に双極性障害の治療において第一選択となる薬剤である。その効果には,躁状態に対する抗躁効果,うつ状態に対する抗うつ効果,躁状態・うつ状態に対する再発予防効果があり,これらすべての効果を兼ね備える薬剤が理想的な気分安定薬と言える。
わが国で気分安定薬として用いられている薬剤には,リチウムのほか,抗てんかん薬のバルプロ酸,カルバマゼピン,ラモトリギンがある。気分安定薬の歴史は古く,1940年代にリチウムの抗躁作用が報告されたことに始まる。その後,抗てんかん薬であるパルプロ酸は60年代,カルバマゼピンは70年代に,それぞれ抗躁効果が報告されている。2003年には,抗てんかん薬であるラモトリギンが双極性障害の維持療法において新たに適応を取得し,治療薬選択の幅が広がっている。
双極性障害の病態が明らかになっていないことから,気分安定薬の作用機序には不明な点が多い。特にリチウムは多様な薬理作用を有し,それらのうちどれが治療効果に関係しているか明らかになってはいないが,イノシトールモノホスファターゼを抑制することでイノシトールの産生を抑制することが主な作用機序とされており1),バルプロ酸やカルバマゼピンもリチウムとは別のメカニズムでイノシトール枯渇作用を有することが示唆されている2)。イノシトールは,これら3種の気分安定薬に共通した神経保護作用を阻害することから,イノシトール欠乏作用を介した神経保護作用が気分安定薬に共通した作用機序のひとつとして考えられている3)。
古典的な気分安定薬であるリチウムは単純な1価の陽イオンであり,誘導体をもとにした創薬を行うことができないことから,これまでの気分安定薬の新薬開発の動きとしては,抗てんかん薬のような既存薬における気分安定化作用の発見が主流であった。最近では,主に統合失調症に対する新たな治療薬として開発された非定型抗精神病薬について,双極性障害における抗躁効果ならびに抗うつ効果が報告され,気分安定薬となりうる可能性が示唆されている。しかし,抗躁効果,抗うつ効果,再発予防効果に加え,自殺予防効果が認められているリチウムは,いまだ双極性障害の薬物療法において第一選択薬とされている。
今後は,双極性障害の病態が明らかにされることによって,新たな作用機序を持つ気分安定薬の開発につながることが期待される。
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