解離とは「意識,記憶,同一性,または知覚といった通常は統合されている機能の破綻」と定義されている(DSM-Ⅳ-TR)1)。強いストレス体験に関連することが多く,以下に記す様々な様態で現れる。強い恐怖や絶望から自我を守る防衛機制となっていることもある。
①解離性健忘:強いストレスを伴うできごとやそれに関連する記憶,あるいは自身の姓名や生活史など,重要な個人情報の想起が不可能になる。普通の物忘れでは説明がつかない。
②解離性遁走:日常生活の場(学校や職場,家庭など)から,唐突に予期せぬ遠出や放浪をするが,その際に個人の同一性が混乱していることもある。いわゆる「ここはどこ?私は誰?」という状況で,過去の想起もできないことが多い。
③解離性同一性障害:かつて「多重人格障害」と言われていたもの。2つ以上のはっきり区別できる人格が存在し,それらが繰り返し入れ替わって患者の言動を統制する。重要な個人情報の想起ができないことが多い。
④離人症性障害:自身が自分の精神過程あるいは身体から遊離し,あたかも外部の傍観者のように感じる体験。現実検討能力は正常に保たれている。
⑤その他:DSM-Ⅳ-TRでは,このほか,特定の文化圏でみられる解離性トランス障害(憑依トランスを含む)やガンゼル症候群などを「特定不能の解離性障害」としている。
身体疾患,薬物や物質の影響を鑑別,除外する。学歴や職歴を含む生活史,家族関係,現在の生活状況,ストレス体験についての詳細な聴取は必須であり(病歴の一部ともなる),それらの情報と併せて現症がどのように経過してきたかを把握する。治療には薬物療法と心理療法があるが,後者が優先される。
詳細は国際トラウマ解離研究学会(http://www.isst-d.org/),同日本支部解離研究会(http://www.isst-d.jp/)の情報などを参照して頂きたい。
●文献
1) American Psychiatric Association, 著:高橋三郎, 他 訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル. 新訂版. 医学書院, 2004.