注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)(DSM-Ⅳ-TR)多動─衝動性あるいは不注意,またはその両方が発達年齢に見合わない行動面の問題となって現れる発達障害である。原因は不明であるが,しつけや努力不足ではなく,基本的には生来的な脳機能障害が発現の主要因と考えられている。男性は女性より数倍多く,学童期には3~7%存在する。典型的には,11歳頃に多動性が,13歳頃に衝動性が軽減し,不注意はしばしば成人期まで持続する。近年は多動─衝動性も児童期と異なる臨床症状を呈しながら持続する場合が多いことが知られるようになり,成人期でも5%に及ぶという報告がある。
多動性とは,児童期には席にじっと座っていられず立ち歩く,お喋りがやめられない,成人期には落ち着かない感じ,貧乏ゆすりなど目的のない動きなどがある。衝動性とは,児童期には他人の会話に割り込む,順番待ちが苦手,成人期では思ったことをすぐ口に出す,衝動買いなどがある。不注意とは,うっかりミスが多い,気が散りやすい,話しかけられていても聞いていないように見える,作業の段取りや整理整頓が苦手,忘れ物や紛失が多いなどがある。それらの行動上の特徴から日常生活において,環境的悪循環をまねくとそれらの症状が増悪すると考えられ,また,うつや不安症状,物質依存,双極性障害などの様々な併存障害を伴う場合がある。
治療は,心理社会的アプローチや薬物療法が行われることが多く,それらを行うには家族や関わる周囲の人々の理解と協力が欠かせない。心理社会的アプローチとは,集中しやすいように工夫するなどの環境調整,適切な行動を教えて対人関係や社会性を身につけていく行動療法などがある。治療薬としてはアトモキセチンと塩酸メチルフェニデートがあり,ともに成人期の保険適用となった。目標は症状をなくすことではなく,様々な日常生活での悪循環が好転して症状を改善させ,自信を持って特性と折り合い,充実した社会生活が送れるようになることである。
●参考文献
▶ 齊藤万比古, 他編:注意欠如・多動性障害(ADHD)診断・治療ガイドライン. 第3版. じほう, 2008.