従来,法医学における薬毒物機器分析にはガスクロマトグラフィー(GC)あるいは液体クロマトグラフィー(LC)に質量分析器を組み合わせたGC/MS,LC/MSが主力として用いられてきた。近年では質量分離部をタンデムに配置したGC/MS/MS,LC/MS/MSへと移行している。
従来のGC/MSやLC/MSなどによる検査に比べ,GC/MS/MSあるいはLC/MS/MSによる薬毒物分析は,1つ目の質量分離部で特定のイオンを選択し,続く衝突室でイオンの断片化を起こし,2つ目の質量分離部で断片化したイオンを検出するMRM(multiple reaction monitoring)による分析を行うことが可能となった。MRMによる分析では,夾雑成分の多い検体からもバックグラウンドを取り除き,より高感度に対象薬毒物成分を検出できるため,特に定性分析における偽陽性・偽陰性の排除,低濃度成分の検出に有効である。さらに,質量分析器の高性能化・迅速化により,法医鑑定における薬物定性分析は従来のイムノアッセイ法による簡易薬物スクリーニングに代わり,機器分析による薬毒物スクリーニングが主力となっている1)。
法医鑑定において機器分析による詳細な薬毒物スクリーニングは,生前の状況が明らかではないことも多い法医検体では非常に重要な検査である。一方で,薬毒物スクリーニング対象成分の選定は各検査機関により異なっているため,今後対象成分については統一・規定されることが望まれる。
【文献】
1) 工藤恵子, 他:医事新報. 2015;4771:56.
【解説】
船越丈司*1,上村公一*2 *1東京医科歯科大学法医学*2同教授