社会保障制度改革国民会議などを通して日本の医療介護総合改革の議論をリードした権丈先生が、その改革の狙いと構造を中心に、社会保障政策の在り方を経済学の視点を豊富に交えて語っている。本書を読むと、とりつきにくいといわれる社会保障が面白くなる。
その一端を私なりに意訳して紹介すると、社会経済が発展しサービス産業が主役として認知される中で、今は労働生産性とは、生産額から原材料費など中間投入額を引いた額を基本に計測されており、社会保険の公定価格の下での医療介護サービス分野では、財政事情から公定価格が下げられれば、生産性は下がったということになる。
社会保障とは財源調達という話がコアであり、本来、国民のQOLの最大化を目指し将来の医療介護全体の需給のあるべき姿を必要な財源を含めて見える化し、消費税等の引き上げと一体で実現を目指すことが、高齢化する成熟経済社会日本ではマクロの厚生政策、経済政策としても正当性があると主張する。
今後地域ごとのあるべき姿を見える化する中で、私的医療資源の適正配置について今こそ職能団体の見識が問われている、障害のある人々の幸せのための介護財源は社会保険方式での調達も必要、などなど、深い経済財政学の造詣がちりばめられた16章にわたる幅と厚みのある話の展開に魅了される。
その語り口は、増税を回避することが日本をダメにすると理を尽くして解き明かしその行き着く先は想像にお任せするとしつつ、世界史用語辞典には、その昔フランスでは財政改革に失敗した結果革命が起きたとある、と述べるなど、深刻な話をあえて軽い表現で教科書風に綴っている。
別途自ら執筆した専門書を「航空母艦」にたとえ、本書はそこからの「スクランブル(緊急発進)」と語る、熱い思いに満ちた警世の書である。