【Q】
高尿酸血症で治療中の48歳の男性。テニスによる右大腿筋断裂の内出血部に蜂窩織炎を併発,39.9℃の発熱を生じ,翌日来院。血液培養でHelicobacter cinaedi(H.cinaedi)検出(16S rRNA遺伝子解析で確認)。アモキシシリン1500mg/日を12日間投与し,中止後6日経過して同部に蜂窩織炎再発。
抗菌薬は何をどのくらいの期間投与すべきか。また,どこか別の部位に感染源があるのか。(神奈川県 S)
【A】
ペニシリン系を含む多くの抗菌薬で感受性が良好だが,再発も多く,2〜6週程度の長期治療が推奨される。腸管からのbacterial translocationが発症の発端である可能性が考えられている
H.cinaediはグラム陰性のらせん状桿菌で,ヒトを含む様々な動物(ハムスター,ラット,ネコ,イヌ,キツネ,サルなど)の腸管常在菌である。H.cinaediの病原性については十分に解明されていないが,細胞致死性膨化性毒素(cytolethal distending toxin;CDT)を産生して腸管上皮細胞内に侵入もしくは貫通することによって菌血症を呈する,いわゆるbacterial translocationが発症の発端になっている可能性が考えられている1)。
腸管常在菌ではあるが消化器症状は必発ではなく, 菌血症を呈する報告が多い。日本での多施設における検討2)では, 血液培養陽性例2718例のうち6例(培養陽性検体の0.22%)でH.cinaediが同定されており, 頻度としては比較的稀な感染症と考えられる。
H.cinaediによる感染については, 欧米ではHIV感染者での報告が最も多く, わが国では化学療法中患者3),透析患者,免疫抑制患者など易感染宿主(compromised host)での感染が多く報告されている。
一方で,明らかな免疫不全がないにもかかわらずH.cinaediによる感染を呈した症例4)や, 免疫低下のない整形外科患者での集団発生の報告5)もあり, 近年は免疫不全に限定して菌血症を起こすとは限らないと考えられている。
新生児における感染症例も報告されているが, これらの症例ではペット(ネコやハムスター)の飼育歴が指摘されており, 動物との接触歴はH.cinaediによる感染を疑う際の参考になることもある。
血液培養にてH.cinaediが同定されることで菌血症の確定診断となるが,発育が緩徐であり, 血液培養で陽転化するまでに8日以上の培養期間を要することも少なくない。通常の血液培養では7日前後で観察を終了するために見逃されることも多く,H.cinaediの可能性を疑う際には7〜10日程度まで培養期間を延長することで検出率が高まる。
またH.cinaediの最終的な同定には遺伝子解析が必要であり,Helicobacter属すべての菌種を共通に検出可能なプライマー(16S rRNA領域)とH.cinaediだけを特異的に検出できるプライマー(gyrB遺伝子)を用いたPCR法による解析が行われている1)。
H.cinaediによる菌血症症例で蜂窩織炎の合併が多いことは特記すべき点であり, 47例のH.cinaedi菌血症症例の検討では, 16例(34%)で皮膚病変の合併を認めたと報告されている6)。
また一般的に見られる蜂窩織炎の所見とは異なり, 四肢に出現する紅色〜紫色の有痛性紅斑ないしは浸潤を伴う紅斑が特徴的であり,易感染宿主における原因不明の発熱など本菌による感染を疑う際にはこれらの所見が参考となりうる。
H.cinaediに対する抗菌薬治療として定まった治療方針は現在までないが, 一般的にペニシリン系,セフェム系を含む多くの抗菌薬で感受性が良好であり, 様々な抗菌薬が治療に用いられている。一方で治療後の再発の報告も多く,マクロライド系やフルオロキノロン系抗菌薬への耐性化も指摘されている。
治療期間については10日間以下の短期間治療と比較して2〜6週程度の長期間の抗菌薬投与が有効との報告もあり7), 再発例では治療期間の延長を考慮する必要があるかもしれない。
1) 大楠清文, 他:感染・炎症・免疫. 2007;37(4): 336-9.
2) Matsumoto T, et al:J Clin Microbiol. 2007;45 (9):2853-7.
3) 西根広樹, 他:日呼吸器会誌. 2007;45(1):26-30.
4) 田中陽平, 他:日内会誌. 2011;100(5):1385-7.
5) Kitamura T, et al:J Clin Microbiol. 2007;45 (1):31-8.
6) Shimizu S, et al:Acta Derm Venereol. 2013; 93:165-7.
7) Kiehlbauch JA, et al:J Clin Microbiol. 1995; 33(11):2940-7.