一般に,抗血小板薬が動脈血栓用,抗凝固薬は静脈血栓用と思われやすい。しかしながら,現段階では静脈系血栓用である直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)も,ワルファリンのように動脈系血栓に有効かもしれない。そもそも,血栓形成機構構成因子は相互に複雑に関連する。凝固カスケードを下った情報は,ポジティブフィードバックで上位の複数の段階に戻り,増幅されて再び凝固カスケードを下ってトロンビンを大量に産生する。トロンビンバーストというこの過程には,血小板活性化も含まれる。つまり,DOACの単一凝固因子修飾も血小板に影響し,動脈血栓形成にも影響しそうである。
しかし現実は複雑である。ダビガトランのRE- LY試験では,心筋虚血に関する影響は良いとは言えないし,急性冠症候群(ACS)を対象にアピキサバンを追加したAPPRAISE-2試験も好ましい結果とは言えない。一方,ACSを対象にリバーロキサバンを投与したATLAS ACS 2-TIMI 51試験では,少量投与群では有効,投与量の多い群では否定的であった。実は前述のRE-LY試験もAPPRAISE-2試験も投与量が少量とは言えない点が一致する。ここには何らかの示唆があるように思える。アスピリンジレンマのように薬物ごとに適正用量があるのか。そして,ワルファリンの適正使用方法開発には,長期間の研究が必要であったことも思い出される。
「育薬」には基礎研究と臨床研究の両面が必要で,DOACについても検討すべき事項は多い。
【解説】
松本直樹 聖マリアンナ医科大学薬理学教授