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宇田川玄真(3)[連載小説「群星光芒」113]

No.4686 (2014年02月15日発行) P.88

篠田達明

登録日: 2014-02-15

最終更新日: 2017-09-19

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  • 医塾の大広間に塾頭をはじめ江澤養樹ら重立った門人がぞろぞろと集まった。あとからついていった玄真は上座に座る源兵衛を初めてみた。日焼けした額が広い50がらみの頑固そうな男だった。その両脇に玄随と親族で門人の田中直助が座っていた。源兵衛は一同を見回して一席ぶった。

    「わしは武蔵国の百姓でお医者のことはよくわからん。だが世間並の知恵はあるつもりじゃ。ことに宇田川家のご先祖の来歴は十分心得ておる」
    話の口調に威圧感があり、宇田川家を蔭で牛耳ってきたことを窺わせた。

    「宇田川家は代々武蔵国足立郡小台村(東京都足立区小台)の豪農じゃったが、玄中様のとき、家督を弟の喜平次様にゆずり江戸市中へ出て医者の看板をかかげた。以来、玄仙様、道紀様と漢方医を家業としてきた。ことに3代道紀様は名医として知られ、美作国(岡山県)津山藩の御典医として江戸鍛冶橋の津山藩邸に召し出されたのじゃ」。源兵衛は誇らしげにいってことばを切った。

    小台村の近くは大川を渡る荷船が盛んに往来する。少し離れて江戸と奥州・日光両街道をつなぐ千住大橋が架かる。近辺は内藤新宿や板橋宿に劣らぬ千住宿場が賑わっている。小台村の大百姓源兵衛は大川の船荷采配にも関わり羽振りがよかった。

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