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イラク・モスルでの戦傷外科と平時の外科【OPINION】

No.4874 (2017年09月23日発行) P.18

鈴木隆雄 (Emergency Medical Center シニア・ メディカル・アドバイザー)

登録日: 2017-09-25

最終更新日: 2017-09-20

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  • イラク軍によるイスラム国からのモスル奪還作戦が、ようやくこの7月に終了した。この作戦中、民間人負傷者の増加に伴い本年2月頃から、NGOや宗教団体の医療チームがモスル近郊で活動するようになった。そこで行われている医療は、戦争が起こるたびに見られる光景であり、そして戦傷外科とは何かというテーマを深く考えさせるものであった。本稿ではそれについて述べてみたい。

    戦傷外科と平時の外科

    戦傷外科とは武器負傷に対しての外科で、平時の外科治療とは異なると考えがちだが、それは大きな誤りである。銃、爆弾による肉体の破壊も交通事故による破壊も、破壊された組織の治療は同じである。したがって、組織破壊の重症度に応じて治療方法は変わるが、いずれも組織を感染から守り、自然治癒をサポートするのが外傷学であり、そこには戦傷外科と平時の外科で違いはない。

    戦傷外科では、初期治療としてのデブリドマン(DBR)後、傷を閉じず数日後、創部が化膿していなければ創閉鎖となる。これを遷延一次縫合(DPC)と呼ぶ。これが平時の外科と異なるような印象を与えるが、これが唯一の感染を防ぐ方法であるならば、平時の外科でも汚染創に対してはこの治療法しかないはず。腹部銃創で、感染が心配される場合は閉腹しないが、平時の外科でも、たとえば消化管の吻合不全が発生した場合、感染が心配される場合は閉腹を避けるのが安全策である。

    モスル近郊に展開するフィールドホスピタル

    かつてソビエト軍がアフガニスタンに軍事作戦を展開していた頃、パキスタンからアフガニスタンに通じる街道には多くの援助団体が集まり援助街道と呼ばれた。今回のモスル奪還作戦は期間が短く、そこまでの規模にはならなかったが、それでも7カ所のフィールドホスピタルが展開され、紛争地でよく見かける光景となった。フィールドホスピタルの中には日本でも知られた世界的NGOも含まれる。

    負傷者の流れは、民間人の場合は、フィールドホスピタルで応急処置を受け、更に治療が必要な患者は車で1時間程の所にあるクルディスタン地方政府の首府・アルビールの病院に搬送される。そのうち、銃・爆傷患者は主に筆者の関与するEMC・Emergency病院が収容する。これらフィールドホスピタルに赴任しているのは先進国からの医療チームなのだが、そこから転送されてくる症例に少なからず問題があった。

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