ワクチンは,古くから実践されてきた治療法であるが,近年様々な疾患へと応用されており,アルツハイマー病のアミロイドβを標的としたワクチン治療の基礎研究,臨床試験なども行われている。
筆者らも高血圧,糖尿病などの生活習慣病に対するワクチンの開発・研究を進めており,「毎日の内服薬」から「年に数回のワクチン」による治療への移行実現をめざしている。
高血圧ワクチンの基礎研究は,レニン・アンジオテンシン系が標的分子として20年以上研究されている。中でもアンジオテンシンⅡに対するペプチドワクチンは,自然高血圧発症ラットを用いた動物実験で有意な抗体価の上昇と有意な血圧の低下を認め,ヒト臨床試験での薬効評価を行っている。
高血圧患者に2種類の濃度で0,4,12週の3回のワクチン投与を行い,投与14週後(3回目ワクチン接種2週後)の24時間血圧の平均値で評価したところ,高濃度群で収縮期血圧9mmHg,拡張期血圧4mmHgの血圧低下を認めた。有害事象も注射部位での軽度の反応のみで,重大な事例は認められなかった1)。
しかし,その後行われた第2相試験では,残念ながらCYT006-AngQbワクチンによる有意な血圧の低下を示すことができなかった。さらなる製剤・投与法などの改良により,今後の治療ワクチンの開発が期待される。
【文献】
1) Tissot AC, et al:Lancet. 2008;371(9615):821-7.
【解説】
中神啓徳 大阪大学健康発達医学寄附講座教授