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(1)グローバルレベルでのロタウイルスワクチン─WHO/CDCの戦略 [特集:ロタウイルスワクチン定期接種化への課題:徹底解析]

No.4782 (2015年12月19日発行) P.20

神谷 元 (国立感染症研究所感染症疫学センター主任研究官)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-31

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  • 感染力の強いロタウイルスは,環境を問わず患者発生を認めるが,特に低所得国では,ロタウイルス感染症は頻度,疾病負荷の両面から公衆衛生上深刻な問題である

    最近の研究によれば,ロタウイルスワクチンを導入した国では,子どもの健康状態に素早くかつ十分な改善が認められている

    ロタウイルスワクチンの高い接種率の達成とそれを維持する環境の整備とともに,ワクチン効果の判定に大切なサーベイランスと副反応である腸重積症のモニタリングが重要である

    1. ロタウイルス胃腸炎の脱水症状

    ロタウイルスは小児の重篤な下痢症の最大の原因病原体である。ロタウイルスは小腸の腸管上皮細胞に感染し,微絨毛の配列の乱れや欠落などの組織病変の変化を起こすことで,腸からの水の吸収を阻害し,下痢症を発症する。通常2日間の潜伏期間をおいて発症し,主に乳幼児に急性胃腸炎を引き起こす。主症状は下痢(血便,粘血便は伴わない),嘔気,嘔吐,発熱,腹痛であり,通常1~2週間で自然に治癒するが,脱水がひどくなるとショック症状や電解質異常をきたし,死に至る場合もある。通常は発熱(1/3の小児が39℃以上の発熱を認める)と嘔吐から症状が始まり,24~48時間後に頻繁な水様便を認める。
    臨床的にロタウイルス胃腸炎に特異的な治療法はなく,下痢,脱水,嘔吐に対する治療を行う。ロタウイルス胃腸炎は他のウイルス性胃腸炎と比較し,嘔吐,下痢の程度がひどく,脱水に陥りやすいとされている。治療法としては点滴,経口補液,整腸剤の投与がある。一般的に臨床的重症度が軽症の場合は経口補液,あるいは外来での静脈輸液を行う。中等症以上の場合は入院して静脈輸液,経口補液を併用する。また,合併症があるときには合併症に準じた治療を行う。

    2. ロタウイルス胃腸炎が国家に与えるインパクト

    ロタウイルス胃腸炎の患者は世界中で認められるが,そのインパクトは低所得国のほうがはるかに大きい。まず,重篤なロタウイルス胃腸炎はほとんどが低所得国で発生している。WHOの試算では2008年には約45万人ものロタウイルス胃腸炎関連死亡例があったとされているが(図1)1),その95%近くが低所得国で発生している2)。感染前からの低栄養状態に加え,下痢,脱水,嘔吐に対して必要な医療の不足,医療へのアクセスの悪さが原因と考えられている。また,高所得国では通常,ロタウイルス胃腸炎は冬から春にかけて流行しており,季節性が認められるが,低所得国では年間を通して流行しているため,頻度,疾病負荷の両面から,特に深刻な公衆衛生上の問題である。
    ロタウイルスは非常に強い感染性を持ち,ごくわずかなウイルス粒子が体内に入り込むだけで感染が成立する。そのため,世界中の子どもは5歳までに少なくとも1度はこのウイルスに感染すると言われており3),高い衛生環境を持つ国でも途上国と同様に患者が発生する。感染が起これば,高所得国でも少なからず死亡例や重症例が発生する(図1)1)


    また,ロタウイルス胃腸炎による合併症も無視できない。重症の胃腸炎症状による脱水症はもちろんのこと,それによる電解質異常などに伴う痙攣や意識障害,腎不全など症状は多岐にわたる。また,ロタウイルス自体が中枢神経障害の原因となるウイルスであり,わが国の急性脳炎・脳症のサーベイランス結果(2007~2013年)によると,0~4歳の中で,ロタウイルスは全体の6%を占めており,インフルエンザ,HHV6/HHV7についで3番目に多くなっている(図2)4)

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